Netflixドキュメンタリー映画『Untold』感想(ネタバレあり)〜アスリートは超人ではなく人間だ〜
Netflixオリジナルのドキュメンタリー映画『Untold』ネタバレ含めた感想です。Netflixのドキュメンタリーはどれもクオリティが高いが、スポーツ界の裏側に焦点を当てた本シリーズはその中でも珠玉の出来。その中でも『慢心と失墜とアイスホッケー』の面白さには度肝を抜かれる。超必見!
作品情報
原題:Untold
製作年:2021年
製作国:アメリカ
日本配信日:2021年8月10日Netflixで順次配信開始
エピソード数:5
ジャンル:ドキュメンタリー
予告編
あらすじ
①2004年、ミシガン州でNBAの試合中、選手間の衝突が観客を巻き込み乱闘へと発展。NBA史上最悪といわれる乱闘事件の真相と余波を、当事者たちが振り返る。
②さまざまな障壁を打ち破り、リングで輝いた伝説的女性ボクサー、クリスティ・マーチン。だがその私生活は、薬物依存や深刻な虐待など深い闇に包まれていた。
③葛藤と信念を胸につかんだオリンピックの栄光。その先で、本当の自分と向き合うため、さらに困難な道のりを歩んだケイトリン・ジェンナーの特別な物語に迫る。
④その実力と激しい乱闘で知られたアイスホッケー界の問題児。そんな彼らを率いたのは、マフィアとつながりのある父親にチームを買い与えられた17歳の少年だった。
⑤米国テニス界の期待を受け、プロとして活躍したマーディ・フィッシュ。だが勝ち続けるプレッシャーの下、コートの内外でメンタルヘルス問題に苦悩することに。
感想
評価:★★★★★
①パレスの騒乱
初公開となる選手と観客の大乱闘の映像を検証しながら、プロと観客の関係性やプロ意識、バスケ=黒人=危険というマスコミや世間のイメージ形成、積み重ねたキャリアが一瞬で崩れ去る恐ろしさ、さらには事件を乗り越えるメンタルといった問題を多角的に捉える見事な構成が光る。
②勝利の拳とその代償
毎日顔を合わせて時間や感情を共有する選手とコーチの関係性にスポットを当てながら、年の差婚を果たす蜜月関係から、夫の操り人形として自由が許されない環境、それがエスカレートして引き起こる壮絶な事件と、同性愛をカミングアウトし自由な生き方を歩んでいく波乱の物語で一気に見せきる。
③ケイトリン・ジェンナーの金メダル
性に違和感を感じながら、混乱する心を忘れさせてくれるスポーツにのめり込み、十種競技の道へ進んでいく。性同一性障害を抱えながら、十種競技の順番ごとに心の持ちようが紹介されていくのが臨場感たっぷり。自分を受け入れてほしい願いは、人を強くする。
④慢心と失墜とアイスホッケー
このシリーズで一番よくできているだけでなく、今年のドキュメンタリー映画屈指の面白さマフィアの父親にホッケーチームを買い与えられた17歳の息子が問題児たちを集めて悪党軍団を作り上げていく様は痛快!
まるでパワプロのアレンジのように選手を大金でかき集めながらも、癖の強すぎる暴れ馬たちを統率し勝ち上がっていくサクセスストーリーと、17歳の素人が観客や選手、さらにはコミッショナーまでも虜にする経営者や漢として成長していく物語が並行して描かれる胸アツ展開に目が離せない!
それでいてゴミ処理業者を隠れ蓑にするマフィア帝国のボスである父親とFBIの攻防、それによって息子の夢が危機に晒されていくスリリングな展開、そして時を経た同窓会的なラストは涙なくしては見られない!
⑤極限のテニスコート
米国テニス界で活躍したマーディ・フィッシュ。彼のキャリアが振り返られるのに合わせて、その時々の心の持ちようが彼の口によって語られる。アスリートとして下り坂に差し掛かる30歳を目前に、徹底的な肉体改造とテニス漬けの日々によって、キャリアハイの成績を残したにもかかわらず、最も大事な試合を棄権してしまう。
アスリートとは、強い肉体と精神力を持っている。それでこそアスリートである、期待に応えるためにそんな姿を無理をして演じることで、かなりのストレスやプレッシャーを感じることになる。だが、弱い心を周囲に気づかせない訓練を無意識のうちに受けていることで、そんな心を閉じ込めてしまう。だからこそ、このドキュメンタリーで初めて彼の心の浮き沈みが、映像とともに語られることになる。