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Netflix映画『寄る辺なき者』感想(ネタバレあり)〜長年尽くしてきた故郷であるはずの国に裏切られるということ〜

Netflix映画『寄る辺なき者』ネタバレ含めた感想です。実際にあったウィンドラッシュ事件に巻き込まれるある男の不条理の積み重ねと喪失を描いた力作。

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作品情報

原題:Sitting in Limbo
製作年:2020年
製作国:イギリス
日本配信日:2021年9月1日Netflixで配信開始
本編尺:1時間29分
監督:ステラ・コッラーディ
出演:パトリック・ロビンソン、ナディーン・マーシャル、CJ・ペックフォード
ジャンル:ドラマ

予告編

あらすじ

50年以上英国に暮らすジャマイカからの移民アンソニーが、ある日突然勾留され、国外退去の危機にさらされる。実際にあったウィンドラッシュ事件を描いたドラマ。

感想

評価:★★★★☆

 

ウィンドラッシュ事件とは

 

本作は実際にイギリスであった「ウィンドラッシュ事件」を基に制作されています。「敵対的環境政策」に基づき、イギリスに渡ってきた移民の流入数を抑えようとする政府が引き起こした事件です。

1973年以前にイギリスに移民した、カリブ海諸国出身の「 ウィンドラッシュ世代」(1948年に西インド移民の最初の一団をイギリスに運んだエンパイア・ウィンドラッシュ号に因んで名付けられた)の一員だった。誤って強制送還された人たちと同様に、不特定多数の人々が誤って拘留されたり、仕事や家を失ったり、本来受けられるはずの給付や医療サービスを拒否されたりした。多数のイギリスの長期居住者は、イギリスへの再入国を誤って拒否され、多くの人々が内務省による即時送還により脅かされた。(Wikipediaより引用)

 

不条理の積み重ね

本作はイギリスで50年以上暮らしてきたひとりの黒人に、不条理が矢継ぎ早に積み重なっていきます。突然の不法労働での解雇、必要書類の山、移民局が自宅に乗り込んできて収容所に送還、釈放と収容を繰り返しながら自主的な帰国を促してくる高圧的な態度…。役人の高圧的なアップと、アンソニーを見下すショットを随所に入れ込むことで、不条理を掻き立てるさりげないカメラワークも効果的です。

 

戻ったものと戻らないもの

アンソニーの場合は、彼の周囲の人々が働きかけることで世論を動かし、政府側の人間を辞任させるまでに至りました。ただ職や家や身分を失い、出自や尊厳をズタズタにされたアンソニーの心には、埋められない穴が確実にぽっかり空いています。

彼を気遣って軽口を叩く家族、行きつけだったバーに誘う旧友たち。ですが、彼らにも収容所であった出来事を話すことはしないアンソニー。長年尽くしてきた故郷であるはずの国に裏切られ、アイデンティティや拠り所を見失う彼の表情は、イギリスではなく世界中で引き起こされる移民排斥運動の犠牲者を代弁しているようです。