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Amazon Prime Video 映画『社会から虐げられた女たち』感想(ネタバレあり)〜社交界という名の男性社会の中で、品定めされる女性たち〜

Amazon Prime Videoオリジナル映画『社会から虐げられた女たち』ネタバレ含めた感想です。社交界という名の男性社会の中で、品定めされる女性たちの不条理な仕打ちを怒りを持って描き出す衝撃作。

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作品情報

原題:The Mad Women's Ball
製作年:2021年
製作国:フランス
日本配信日:2021年9月17日Amazon Prime Videoで配信開始
本編尺:2時間1分
監督:メラニー・ロラン
出演:ルー・ドゥ・ラージュ、メラニー・ロラン、エマニュエル・ベルコ
ジャンル:ドラマ

あらすじ

ウジェニーには、死者の声を聞いたり姿を見たりできる特別な力があった。19世紀末、家族にその秘密を知られてしまった彼女は、父と弟によって運命から逃れることのできないサルペトリエール病院に入院させられてしまう。彼女の運命は病院の看護師であるジュヌヴィエーヴの運命と複雑に絡み合っていく。シャルコー医師が主催する毎年恒例の「舞踏会」の準備をとおして出会った2人。この出会いが2人の未来を変えていくことになる。

感想

評価:★★★★☆

 

イングロリアス・バスターズ』『オーケストラ!』などで有名なフランス女優のメラニー・ロラン一方で監督としても着々とキャリアを積んでおり、本作は『欲望に溺れて』 『ガルヴェストン』以来の5作目の長編監督作である。

男性は立派な仕事と幸せな結婚が望まれる一方で、女性はそんな男性を陰で支えることを求められる。そんな時代に、父親に内緒で外出しカフェで読書し、社交界を雌馬の品評会のようと切り捨てるウジェニー。霊の声が自然と聞こえるという能力がゆえではあるが、先進的すぎる言動で仕事や家族の名を汚す娘を厄介払いするために父親は彼女を精神病院へと送ってしまう。

ブルジョア階級である彼女が住まう屋敷の窓、蝋燭、扉、鏡といった光やインテリアを効果的に配する画作りは見事で、その後の精神病棟内の簡素的な色彩や構造がより一層彼女の心から潤いや張りが損なわれていくさまを視覚的に表している。

この精神病棟での「患者」たちの扱いがまた壮絶だ。首だけ出る樽風呂に漬け込む水治療、まるでショーのように催眠術をかけて痙攣発作が起きてもほったらかしにする見世物のような治療、拘束着のようなコルセットを巻き子宮を広げて卵巣を見る治療。それらは臨床試験という形で治療の名のもとに行われ、医学界の権威が集う学会で発表するために彼女たちの写真の撮影会も行われる。酷すぎて反吐が出るくらいだ。

本作は、冒頭でウジェニーが言い放ったように、社交界という名の男性社会の中で、女性たちは性の対象としていつでも品定めされる。そこで男性たちを満足させた者だけがチャンスを掴めるのだろうか。催眠術ショーや終盤のサルペトリエール病院で行われる舞踏会では男性は無力な女性を支配し、まるで下僕のように扱う。

そんな中で、ウジェニーの担当となる二人の対象的な看護婦が機能する。彼女が霊が見えるから男性社会に虐げられているのではなく、裏を返せば正気だから虐げられないわけではない。正気か狂気か、あるいは正常か異常か、それが治ったか治っていないかは、男性のさじ加減で決まってしまう。そんな不条理に腹が立ってくる。

誰かを救うために、他の誰かが犠牲になり、正気が奪われる中で、救いの手を差し伸べてくれる人がいる。ウジェニーは社会から虐げられ、救い出されたものの、また他の社会の片隅で生きるしかないだろう。そんな状況でも、宗教でも医学でも救えない魂の寄り添いに、胸を打たれる。