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Amazon Prime Video 映画『観察者』感想(ネタバレあり)〜デ・パルマばりの、見る/見られる関係性の背徳感〜

Amazon Prime Videoオリジナル映画『観察者』ネタバレ含めた感想です。映画における「見る/見られる」関係性の背徳感と、どこで一線を越えてしまうかじっくりと観察するデ・パルマばりのエロティック・スリラー。

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作品情報

原題:The Voyeurs
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年9月10日Amazon Prime Videoで配信開始
本編尺:1時間56分
監督:マイケル・モーハン
出演:シドニー・スウィーニー、ジャスティス・スミスベン・ハーディ
ジャンル:スリラー

あらすじ

ある若いカップル(シドニー・スウィーニーとジャスティス・スミス)が、通りの向かいの住人(ベン・ハーディとナターシャ・リュー・ボルディッゾ)の性生活に興味を持ち始める。そんな中、その住人が浮気していることを知ってしまう。それをきっかけに無邪気な好奇心が、ゆがんだ執着心へと変わっていく。誘惑と欲望から彼らは面倒なことに巻き込まれていく。それが恐ろしい結末へとつながるのである。

感想

評価:★★★★☆

 

映画というのは「何かを見たい・覗きたい」という欲望をそのまま具現化したような媒体だ。しかも、暗闇の客席という誰にも邪魔されない特等席から、一方的に視線を送ることができる。だからこそ、映画における「見る/見られる」という関係性は、官能的であり、背徳的であり、また時に支配的であり、暴力的でもある。

本作は細かい設定の辻褄合わせは脇においておき、そんな欲望をダイレクトに掻き立てて見せる。隣のビルで連日連夜、美男美女がセックスしているのを見せつけてくる。見えるようにしているからといって、見ていいわけではない。いや、逆に露出癖があるのならば、見てあげたほうがいいのか。人間の底なしの欲望を掻き乱す。

浮気は良くないという正義と、自分もあそこで抱かれたいと思う欲望。前半でそんな相反する想いを体いっぱいに充満させたところで、文字通り一線を越えて、見ていた場所に自分がいるという究極的な背徳感を味わう後半は、もはやエクスタシーの極みだろう。

ビルを隔てた欲望のやり取り以外にも、例えば眼科に勤めている彼女が、視力や眼帯検査の機器ごしに向き合う場面の素晴らしさ。相手の眼球の奥底まで一方的に覗き込むときの双方の口元を官能的に映し出してみせる。或いは、モデルとカメラマンという「撮る/撮られる」の関係が、どこで一線を超えてしまうか。その一点をじっくりと観察していく。

そんなエロティックな場面を積み重ねながら、終盤に本作は「覗く/覗かれる」という関係を鮮やかに反転させることで、スリラーへと変貌させてみせる。このジャンルへの傾倒を含め、ブライアン・デ・パルマへの影響を猛烈に感じさせるが、特等席を与えて仕組まれた物語を見せ、誘惑して公に新たな物語を晒すというプライバシー権やリベンジポルノといった現代的な要素も織り込んだ着地も純粋に面白い。マイケル・モーハンという映画作家の今後の歩みが楽しみだ。