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映画『まともじゃないのは君も一緒』感想(ネタバレあり)〜ある一定の価値観を押し付けない心地よさ〜

映画『まともじゃないのは君も一緒』ネタバレ含めた感想です。成田凌と清原果耶のまるで素のような会話劇の圧倒的な面白さと、ある一定の価値観を押し付けない作りてのバランス感覚が光る傑作。

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(C)2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

作品情報

製作年:2021年
製作国:日本
公開日:2021年3月19日
本編尺:1時間38分
監督:前田弘二
出演:成田凌、清原果耶、山谷花純小泉孝太郎泉里香
ジャンル:恋愛

予告編

youtu.be


解説

婚前特急」の監督・前田弘二と脚本・高田亮が再タッグを組み、成田凌と清原果耶がダブル主演を務めた恋愛ドラマ。

あらすじ

人とのコミュニケーションが苦手で、数学ひと筋で生きてきた予備校講師の大野。今の生活に不満はないが、このままずっと1人でいることに漠然とした不安を抱えている。世間知らずで「普通」が何かわからない彼は、女の子とデートをしてもどこかピントがずれているような空気を感じる。教え子の香住は、そんな大野を「普通じゃない」と指摘してくれる唯一の相手だ。恋愛経験はないが恋愛雑学だけは豊富な香住に、「普通」を教えてほしいと頼み込む大野だったが…。

感想

評価:★★★★★

日本映画はスケールが小さくてつまらない、自分の半径数メートルの話に縮こまっている、というのはよく言われる批判だ。だが一方で、近年の日本映画の会話劇の面白さは群を抜いているとも思う。それは今泉力哉を筆頭に、作家性や画の力でグイグイ引っ張るのではなく、俳優の地に足のついた存在感や、その場の空気感を大切にし、その中から人間の悲喜こもごもの滑稽さや愛らしさを引き出すような映画だ。そして本作もそのような魅力に満ち満ちている。

仲間の輪に入っているようで、世の中を斜めに見ていて、年上の大人に憧れる清原果耶。会話が進むにつれ拗らせているのが露わになり、相手が言ったことをそのまま聞き返す癖があり、笑いのツボがずれていて笑い方が変で、デリカシーもない成田凌下手をすれば極端な戯画的なキャラクターになりそうなものを、まるで素のようにキャラクターを自分のものにし血を通わせる二人の演技がまずは素晴らしい。

清原果耶は恋愛、成田凌は結婚を意識し、それぞれゴールに辿り着くにはどうすればいいのか計画を立て、実行する。そんな中で、分からないことは分からないと言える、自分を変えるために教えてほしいと頭を下げる姿が清々しい。ここから二人の計画のベクトルがズレていき、想いが交錯していくと共に、魅力ある人間へと確実に成長していく過程を会話で丁寧に紡いでいく。

この映画が素晴らしいのは、ある一定の価値観を押し付けないところだ。実は尊敬に値しない男だと分かった小泉孝太郎が言う。大切な人とは付き合いが雑になる。それを当たり前だとお互いが思っていれば、うまい付き合いが長くできるのではないかと信じたい。それは不倫の言い訳にも聞こえるが、それでも相手を断罪せずに、結婚というのを受け入れていくのもまた真理かもしれないという余地を残すバランスが見事だ。

また「普通」「まとも」というのを主題にすると、結局は個性を大事にという着地になりがちだ。だが、本作は普通は何かを諦めるための口実なのかと突きつけながらも、個性が強いがゆえの孤独や疎外感と、普通やまともであることへの憧れや学びも肯定する。あるいは、いわゆる「普通」側の人間も実は普通には振る舞いたくないという価値観の反転する場面を入れることで、そこに揺さぶりをかける。この正しさを追い求めない押し付けがましくなさを、さらりと描いていくバランス感覚がとにかく心地よい。