映画『弱虫ペダル』感想(ネタバレあり)〜小野田坂道の強靭さと、狂人さ〜
映画『弱虫ペダル』ネタバレ含めた感想です。恋愛や苦悩、対立といった要素を極力排除し、ロードレースで物語ろうとした作り手の思い切りの良さに好感が持てる一作です。
作品情報
製作年:2020年
製作国:日本
公開日:2020年8月14日
本編尺:1時間52分
監督:三木康一郎
出演:永瀬廉、伊藤健太郎、橋本環奈、坂東龍汰、竜星涼
ジャンル:青春、スポーツ
予告編
解説
コミックス累計発行部数2500万部を突破し、アニメ版や舞台版も人気のスポーツ青春漫画「弱虫ペダル」を実写映画化。「King&Prince」の永瀬廉が「うちの執事が言うことには」に続き主演を務め、主人公の良きライバル・今泉俊輔を伊藤健太郎、自転車競技部のマネージャー・寒咲幹を橋本環奈がそれぞれ演じる。監督は「旅猫リポート」「植物図鑑 運命の恋、ひろいました」の三木康一郎。
あらすじ
運動が苦手で友達がいないアニメ好きの高校生・小野田坂道。ひょんなことから高校の自転車競技部に入った彼は、自転車選手として思わぬ才能を発揮する。そして初めてできた仲間のために、自分の限界や壁を越えてともに走る喜びを見いだしていく。
感想
評価:★★★☆☆
純粋なスポーツ映画
この手の日本の青春映画は、例えば主人公とヒロインの恋愛模様を織り交ぜたり、学校生活での悩みや部活動でのライバルとの対立などの要素を盛り込みながら、それらを成就・解決することでゴールへと向かうという物語の作り方が多い印象を受けます。
ですが、本作はそれらの要素にほとんど尺を要しません。ペダルをとにかく回すというシンプルな思考。主人公の自分が与えられた役割を仲間のために全うするというもはや狂気的とも言える真っ直ぐな献身精神。そして尺の殆どをロードレースに費やし、俳優の肉体のオーバーヒートっぷりに物語を託した作り手の思い切った判断にとても好感が持てます。
学生時代に僕もママチャリで片道15キロほど、雨の日はカッパを着て、雪の日はスタッドレスタイヤを履いて、アップダウンの激しい道を毎日往復していましたが、そのおかげで圧倒的な脚力を手に入れることができました。ただ電車賃を浮かせるためにアキバまでママチャリを漕ぐ坂道は、やはり強靭であり、狂人ですね…。
ロードレースで物語る
ロードレースというのは団体競技であり、チームの誰かが一着でゴールすればいいというルールを本作は最大限活かしています。先頭は空気抵抗が倍になるため、誰かが犠牲になる代わりに、誰かの体力を温存させてゴールまで届けるという発想になります。
またスプリントが得意、山登りが得意、追いかけるのが得意、といった個々の特徴を組み合わせた陣形やペース配分はかなり戦術的で、純粋にスポーツ映画としての楽しさが詰まっています。だからこそ、自分の限界を含めて個々が能力を把握し、それぞれの役割を全うする姿に感動を覚えます。
レース中どのくらい離されているのか位置関係が把握しづらい、ライバル校のエースがどの程度の能力を持っているかの描写がないため脅威なのか分からないなど欠点はあるものの、自転車競技にリスペクトを持って物語ることに成功した一作だと思います。