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映画『青くて痛くて脆い』感想(ネタバレあり)〜「ヤマアラシのジレンマ」に悩み続ける人間関係〜

映画『青くて痛くて脆い』ネタバレ含めた感想です。「ヤマアラシのジレンマ」という言葉に代表される、世の中を生きる上での人間と人間の距離感から生じる痛みや温もりを鋭角に描き出した青春映画の秀作。

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(C)2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

作品情報

製作年:2020年
製作国:日本
公開日:2020年8月28日
本編尺:1時間58分
監督:狩山俊輔
出演:吉沢亮杉咲花岡山天音松本穂香
ジャンル:青春

予告編

youtu.be


解説

実写とアニメで映画化された「君の膵臓をたべたい」の住野よるの同名青春サスペンス小説を、吉沢亮杉咲花主演で映画化。

あらすじ

コミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう田端楓と、理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃。ひとりぼっち同士の大学生2人は「世界を変える」という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げるが、秋好は「この世界」からいなくなってしまった。その後のモアイは、当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまう。そして、取り残されてしまった田端の怒りや憎しみが暴走する。どんな手段を使ってもモアイを破壊し、秋好がかなえたかった夢を取り戻すため、田端は親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てる。

感想

評価:★★★★☆

本作で描かれているのは、ヤマアラシのジレンマ」という言葉に代表される、人間と人間の距離感についてだ。針毛に身を包むヤマアラシ同士が体を寄せ合えば、お互いの針毛で相手を傷つけてしまうことになるように、人間関係においても、相手に近づきたいけど、傷つけてしまう・傷つけられる可能性があるから近づけない。

吉沢亮もそれを人生のポリシーにしている。自分の言動で相手を不快にさせる可能性があるからこそ、不用意に人に近づきすぎず、人の意見も否定しない。そうすれば、人を傷つけることもなく、その人から傷つけられることもなく、結果的に自分を守ることになる。そうやって生きづらい世の中で、息ができる場所を確保している。人との距離感を的確に掴んで生きる生き方も、確かに悪くない。

一方で、積極的に相手の懐に飛び込み、交友関係を拡げようとする人間もいる。それが本作の杉咲花だ。生きづらい世の中であるならば、その世の中自体を変革しようと声高に主張し、主体的に動ける人間だ。そんな水と油のような吉沢亮杉咲花人間関係の距離の捉え方、自己肯定感、生きる上での大義といったものの違いで互いに摩耗し、非難し、拒絶し合いながらも、根本では人を渇望するジレンマを、青臭さと痛みと弱さをもって描いた本作は、心に鋭角に突き刺さるものがある。

政治活動や就職活動といった主体性を持って世間と対峙する場。あるいは、SNSといった匿名性が担保された安全圏で世間と対峙する場。世の中には対峙しなければならない場がいくつもあり、その中で本当の自分が出せる場なんて一握りだろう。そんな中で、待ち合わせの場のような大切な場所があることがどれだけ幸せなことか。そして、そんな思い出にいつまでも安住したい気持ちを断ち切って、またしても傷つきながら新たな場で人間や世間と対峙するのがどんなに恐ろしいことか。

人は誰かを間に合わせにして生きている。それだけ聞くと、情がない生き方のように感じなくもない。だが、その時は誰かに必要とされていたことで十分なんじゃないかという考え方は、自己肯定感を上げ、生きづらい世の中で息をするにあたって、とても大事な考え方のように感じる。