RICKのしまシネマ 

映画館のない離島から、NetflixやAmazonプライムビデオの新作配信映画を中心に爆速レビュー!

映画『空白』感想(ネタバレあり)〜「正しさ」の副作用に苦しめられる人間たちが見る景色〜

映画『空白』ネタバレ含めた感想です。現代に蔓延る「正しさ」の強要による副作用を圧倒的な真実味を持って描いた、今年度の日本映画を代表する大傑作。

f:id:rick4455:20211111223639j:plain

(C)2021「空白」製作委員会

作品情報

製作年:2021年
製作国:日本
公開日:2021年9月23日
本編尺:1時間47分
監督:吉田恵輔
出演:古田新太松坂桃李田畑智子、藤原季節、片岡礼子寺島しのぶ
ジャンル:ドラマ

予告編

youtu.be


解説

「ヒメアノ~ル」の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本作品で、古田新太主演、松坂桃李共演で描くヒューマンサスペンス。悪夢のような父親・添田を古田、彼に人生を握りつぶされていく店長・青柳を松坂が演じ、「さんかく」の田畑智子、「佐々木、イン、マイマイン」の藤原季節、「湯を沸かすほどの熱い愛」の伊東蒼が共演。

あらすじ

女子中学生の添田花音はスーパーで万引しようとしたところを店長の青柳直人に見つかり、追いかけられた末に車に轢かれて死んでしまう。娘に無関心だった花音の父・充は、せめて彼女の無実を証明しようと、事故に関わった人々を厳しく追及するうちに恐ろしいモンスターと化し、事態は思わぬ方向へと展開していく。

感想

評価:★★★★★

今年の東京国際映画祭でも特集された監督・吉田恵輔。『さんかく』『ばしゃ馬さんとビッグマウス』『麦子さんと』『銀の匙』といった一見ライトでハートウォーミングな作品でも、人間たちへの鋭い洞察や毒っ気に思わずハッとさせられたが、その後の『ヒメアノ〜ル』『犬猿』『愛しのアイリーン』『BLUE ブルー』といった硬派な衝撃作の数々でいよいよそれは鋭さを増し、そして本作は吉田監督のキャリアの中でも代表作となるような傑作であることは間違いないだろう。

ポリティカル・コレクトネス、自粛警察が象徴するような現代に蔓延る「正しさ」の強要。それは他者への共感能力を停止させ、それぞれの「正義」を押し付け合うことで、互いを非難することでしか関わりを持てなくなる社会の空気を作り上げてしまう。本作はそんな「正しさ」の副作用に振り回され、摩耗し、疲弊し、苦しめられる人間たちが、それでも人として懸命に生きようとする姿を描いてみせる。

主演の古田新太が亡き娘と同じ風景に出会い、涙し、追悼する様。怒鳴り散らし、一見身勝手にも見える海の男を、怪物として突き放すのではなく、それでも血の通った人間として描いてみせる。そのうえで本作が素晴らしいのは、登場するどのキャラクターたちも血が通った人間として描き切るフェアな視点であり、もっと尺を延ばしたら演技的な見せ場になりそうな場面でも、過剰でセンチメンタルになる前にシーンを切り上げる演出と脚本が光っている。

人間は生きている以上、いつどこで運命が狂わされるか分からない。そんな悲惨な状況で人はどのように心の晴れない景色と折り合いをつけ、踏ん切りをつけ、自分や世界を見つめ、一歩を踏み出そうとするのか。人間の心を壊していく光景があると同時に、人間の心をフッと軽くしてくれるような光景もまた同時に本作では描かれる。その誠実さや繊細さが積み重なるからこそ、絶望の先の景色に圧倒的な真実味が生まれるのだ。

 

shimacinema.hatenablog.com

shimacinema.hatenablog.com

shimacinema.hatenablog.com