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映画館のない離島から、NetflixやAmazonプライムビデオの新作配信映画を中心に爆速レビュー!

Netflix映画『悪夢は苛む』感想(ネタバレあり)〜いかなる時でも親は我が子を信じてあげられるか〜

Netflixオリジナル映画『悪夢は苛む』ネタバレ含めた感想です。外界から身体の内側に入りこむ虫酸が走るような感覚を散りばめながら、親と我が子の信頼関係を考察してみせる奇妙な味わいの一作。

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作品情報

原題:Distancia de rescate
製作年:2021年
製作国:アメリカ・チリ・ペルー・スペイン・アルゼンチン
日本配信日:2021年10月13日Netflixで配信開始
本編尺:1時間33分
監督:クラウディア・リョサ
出演:マリア・バルベルデ、ドロレス・フォンシ、ヘルマン・パラシオス
ジャンル:サスペンス

予告編

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あらすじ

夏の間だけ町に滞在している女性と地元の住民という、2人の若い母親が出会う。やがて彼女たちの関係から、迫り来る環境災害と精神の危機が明らかになってゆく。

感想

評価:★★★☆☆

本作はとても癖のある語り口の映画だ。アマンダという女性から見た現実の世界を、彼女とダヴィドという少年がまるで副音声で解説しているように反芻する。しかも、好きなところから再生・停止できるようなビデオ的な感覚のストーリーテリングであり、それ故、同じような断片が繰り返し映し出されたり、細部に目を凝らすことが重要だとメタ的な視点で示されたりと、とにかく難解な印象は受ける。

だが、本作の軸となるものは至ってシンプルだ。それは、いかなる時でも親は我が子を信じてあげられるか、ということだ。たとえ怪しげな呪術によって病気が治る代償として、かつての我が子ではない佇まいで、まるで羊水から再び生まれてきたように戻ってきても、そんな我が子を抱きしめて受け入れてあげられるのか。それが終始問われている。日常的に親が我が子の救える距離とリスクを瞬時に計算していても、その計算している物差し自体が狂ってしまうような事態を目の前にし、母親は狼狽えていく。

人体に影響を及ぼすものが世の中には溢れていると言われているが、実際にそれが人間の身体の中でどのように悪影響を及ぼすのか、いまいち実感が湧かない。それを農薬や虫といったものや、馬や人間の生殖活動といったような、外界から身体の内側に入りこむ虫酸が走るような感覚を散りばめることで、精神が錯乱するような状態に陥らせようとする一方で、それを主観的ではなく、ナレーションを交えて客観的に考察することで物語のバランスを取ろうとした、奇妙な味わいの実験作だ。

Netflixドキュメンタリー映画『コンバージェンス: 危機のなかの勇気』感想(ネタバレあり)〜国家の分断はウイルスが付け入る隙になる〜

Netflixオリジナルのドキュメンタリー映画『コンバージェンス: 危機のなかの勇気』ネタバレ含めた感想です「国家の分断はウイルスが付け入る隙になる」という印象的な言葉の通り、今まで政府や行政が見て見ぬふりをしてきた問題の顕在化を描き出す。

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作品情報

原題:Convergence: Courage in a Crisis
製作年:2021年
製作国:アメリカ、イギリス
日本配信日:2021年10月12日Netflixで順次配信開始
本編尺:1時間53分
ジャンル:ドキュメンタリー

予告編

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あらすじ

新型コロナウイルスのまん延で、世界中であらわになった社会のひずみ。より良い未来に向けて、社会の隅々で闘う名もなきヒーローたちの姿を追うドキュメンタリー。

感想

評価:★★☆☆☆

新型コロナによって逼迫する世界中の医療現場。本作はそこで患者を診察する医師ではなく、病院で働く清掃員や、病院に行けない人々を送迎するボランティアやソーシャルワーカーの活躍にスポットを当てる。縁の下で社会の混乱を支える人々に焦点を当てるという意味では、フィクション映画ではあるが、ベン・スティラー監督の傑作『LIFE!』といった作品が頭に浮かぶ。

そこから浮かび上がるのは、今まで政府や行政が見て見ぬふりをしてきた問題の顕在化だ。見捨てられたスラム街、街のために医療従事する難民や移民、公衆衛生教育の失敗。命の危険を冒してまで医療現場で働いているにも関わらず、保険の対象から除外されれ、患者もコロナで死んだら、その家族は在留許可が取れない。機能しない行政に頼ることなく、自ら行動を起こす人々の尊さは胸に迫るものがある。

「国家の分断はウイルスが付け入る隙になる」という印象的な言葉の通り、混沌とした世界の社会的な病理も浮かび上がらせた後、本作は見捨てられた人々の声を「連帯」という形で世の中に提示する様を映し出す。だが、コロナという終わりの見えない闘いを描きながらも、その問題を中途半端に切り上げて主張を押し通す構成は、ドキュメンタリーとしてはスマートではないようにも思う。

 

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Netflix映画『THE GUILTY/ギルティ』感想(ネタバレあり)〜オペレーターが左遷された理由〜

Netflixオリジナル映画『THE GUILTY ギルティ』ネタバレ含めた感想です。オリジナル版の巧妙な密室サスペンスとしての面白さはありつつ、昨今問題になっている警察の職権乱用にも釘を刺す一作。

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作品情報

原題:THE GUILTY
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年10月1日Netflixで配信開始
本編尺:1時間31分
監督:アントワン・フークア
出演:ジェイク・ギレンホールイーサン・ホーク、ライリー・キーオ
ジャンル:サスペンス

予告編

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あらすじ

電話から聞こえる声と音だけで誘拐事件を解決するという、シンプルな設定と予測不可能なストーリー展開で高い評価を獲得した同名デンマーク映画を、ジェイク・ギレンホール主演・製作でアメリカを舞台にリメイク。911緊急通報センターに勤務するコールオペレーターのジョー・ベイラーは、1本の謎の電話から、通報者の女性が何者かに拉致されたことを予測する。電話から聞こえてくる声と音だけを頼りに彼女を助けようとするジョー。しかし、次第に何もかもが自分の思っていることとは違っていることに気づき…。

感想

評価:★★★☆☆

オペレーター室で全編が展開する本作は、電話口からの声や音など外部からの情報が限られているが故に、繰り広げられている光景を瞬時に脳内で想像し、状況を好転させるべく動かなければならないサスペンスが軸となる。そして情報が限られているからこそ、人間の先入観が浮き彫りになり、足枷として機能し物語が二転三転していく様が面白い。

さらに観客は左遷され最後の日を過ごすこのオペレーターと同じような状況に置かれる一方で、この主人公は一体どのような人物なのかという不安にも襲われる。だからこそ、次にどのような決断を下すのか読めないサスペンスも同時に生まれる。彼の時より見せる荒っぽい言動のひとつひとつや、情報の出し方や順序が非常に巧みに練られており、作り手の手腕が光る。掛かってくる電話をスイッチングで捌きつつ、情報収集して断片から物語を組み立てるテンポの良さもいい。

そしていよいよ事件の全貌と、リメイク版である本作ならではの主人公が抱える過去のが明らかになった、その交点にクライマックスを持ってくる。だが、罪の意識に苛まれ改めて自分と向き合うからこそ、そこで下す決断と事件の行く末に真実味が生まれるものの、未成年の少年を銃殺したという昨今問題になっている警察の職権乱用を告白するという結末を導くために、事件をダシに使ったようにも見える。

映画『青くて痛くて脆い』感想(ネタバレあり)〜「ヤマアラシのジレンマ」に悩み続ける人間関係〜

映画『青くて痛くて脆い』ネタバレ含めた感想です。「ヤマアラシのジレンマ」という言葉に代表される、世の中を生きる上での人間と人間の距離感から生じる痛みや温もりを鋭角に描き出した青春映画の秀作。

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(C)2020「青くて痛くて脆い」製作委員会

作品情報

製作年:2020年
製作国:日本
公開日:2020年8月28日
本編尺:1時間58分
監督:狩山俊輔
出演:吉沢亮杉咲花岡山天音松本穂香
ジャンル:青春

予告編

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解説

実写とアニメで映画化された「君の膵臓をたべたい」の住野よるの同名青春サスペンス小説を、吉沢亮杉咲花主演で映画化。

あらすじ

コミュニケーションが苦手で他人と距離を置いてしまう田端楓と、理想を目指すあまり空気の読めない発言を連発して周囲から浮いている秋好寿乃。ひとりぼっち同士の大学生2人は「世界を変える」という大それた目標を掲げる秘密結社サークル「モアイ」を立ち上げるが、秋好は「この世界」からいなくなってしまった。その後のモアイは、当初の理想とはかけ離れた、コネ作りや企業への媚売りを目的とした意識高い系の就活サークルへ成り下がってしまう。そして、取り残されてしまった田端の怒りや憎しみが暴走する。どんな手段を使ってもモアイを破壊し、秋好がかなえたかった夢を取り戻すため、田端は親友や後輩と手を組んで「モアイ奪還計画」を企てる。

感想

評価:★★★★☆

本作で描かれているのは、ヤマアラシのジレンマ」という言葉に代表される、人間と人間の距離感についてだ。針毛に身を包むヤマアラシ同士が体を寄せ合えば、お互いの針毛で相手を傷つけてしまうことになるように、人間関係においても、相手に近づきたいけど、傷つけてしまう・傷つけられる可能性があるから近づけない。

吉沢亮もそれを人生のポリシーにしている。自分の言動で相手を不快にさせる可能性があるからこそ、不用意に人に近づきすぎず、人の意見も否定しない。そうすれば、人を傷つけることもなく、その人から傷つけられることもなく、結果的に自分を守ることになる。そうやって生きづらい世の中で、息ができる場所を確保している。人との距離感を的確に掴んで生きる生き方も、確かに悪くない。

一方で、積極的に相手の懐に飛び込み、交友関係を拡げようとする人間もいる。それが本作の杉咲花だ。生きづらい世の中であるならば、その世の中自体を変革しようと声高に主張し、主体的に動ける人間だ。そんな水と油のような吉沢亮杉咲花人間関係の距離の捉え方、自己肯定感、生きる上での大義といったものの違いで互いに摩耗し、非難し、拒絶し合いながらも、根本では人を渇望するジレンマを、青臭さと痛みと弱さをもって描いた本作は、心に鋭角に突き刺さるものがある。

政治活動や就職活動といった主体性を持って世間と対峙する場。あるいは、SNSといった匿名性が担保された安全圏で世間と対峙する場。世の中には対峙しなければならない場がいくつもあり、その中で本当の自分が出せる場なんて一握りだろう。そんな中で、待ち合わせの場のような大切な場所があることがどれだけ幸せなことか。そして、そんな思い出にいつまでも安住したい気持ちを断ち切って、またしても傷つきながら新たな場で人間や世間と対峙するのがどんなに恐ろしいことか。

人は誰かを間に合わせにして生きている。それだけ聞くと、情がない生き方のように感じなくもない。だが、その時は誰かに必要とされていたことで十分なんじゃないかという考え方は、自己肯定感を上げ、生きづらい世の中で息をするにあたって、とても大事な考え方のように感じる。

Netflixオリジナル『ハリウッドを斬る! ~映画あるある大集合』感想(ネタバレあり)〜ハリウッド映画が積み上げてきた歴史とイメージの固定化〜

Netflixオリジナル『ハリウッドを斬る! ~映画あるある大集合』ネタバレ含めた感想です。お決まりの描写にツッコミを入れながら、ハリウッド映画が積み上げてきた歴史と、危険を及ぼすイメージの固定化を紹介する楽しい一作。

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作品情報

原題:Attack of the Hollywood Cliches!
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年9月28日Netflixで配信開始
本編尺:58分
出演:ロブ・ロウ、フローレンス・ピュー、アンドリュー・ガーフィールド
ジャンル:バラエティ

予告編

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あらすじ

一匹狼(おおかみ)、素敵な出会い、爆発寸前の時限爆弾など。ハリウッド映画でお決まりの展開や"あるある"シーンについて、大物スターや業界関係者が深掘り解説。

感想

評価:★★★★☆

映画にはお決まりの展開がある。映画はフィクションであり、だからこそ現実とはかけ離れた定番が無数にある。それをリアリティがないと断罪するのは簡単だが、一方でそれはハリウッド映画の各ジャンルが試行錯誤して積み重ねてきた歴史でもある。

例えば、ロマコメの普通じゃない男女の出会い方、しつこく女性を誘う男性、それが逆になればストーカーやサイコパスとして描かれる。刑事は型破りが多く、バッジと銃が大好きで、退職日に殉職しがち。アクションでは敵を殺した後に捨てゼリフを吐き、格闘するときは敵は律儀にひとりずつ現れる。ホラーでは飼い猫や鏡を多用したフェイントで怖がらせ、ファイナルガールが悪と対峙する、といったようなものだ。

これらは作り手と観客が無意識に共有しているルールだ。突っ込みどころであり、映画そのものの愛嬌であり、それらの描写があると待ってましたという歌舞伎感さえある。本作はそれを愛あるイジりで紹介しているのがいい。

一方で、多様性という名目でチームに女性を入れることが逆に男性の視線にさらされることになる。白人の救世主としてマジカルにグロと呼ばれる黒人が登場する。同性愛者は病気で死にがち、顔が見にくく傷跡があれば悪役になりがちだ。

それらは女性や人種といったイメージを固定化する危険性もある。それは長年ハリウッドが押し付けてきた役割だろう。近年は意識的に様々な人種や性別のキャラクターを登場させる映画も増えてはいるものの、ただ登場させて手に余らせている場合や、逆に作り手の差別的な意識が潜在的に現れてしまっているものもある。それをひっくるめて、ハリウッドが積み上げてきた歴史と、これからのハリウッドの指標のようなものを改めて感じられる参考書のような楽しい一作。

 

 

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Amazon Prime Video 映画『バーズ・オブ・パラダイス』感想(ネタバレあり)〜一緒にゴールテープを切る誓いはどこまで続くのか〜

Amazon Prime Videoオリジナル映画『バーズ・オブ・パラダイス』ネタバレ含めた感想です。仲良し二人組が一緒に手を繋いでかけっこのゴールテープを切ると約束しながら、目の前にニンジンをぶら下げたら、その友情や誓いは一体どこまで続くのか。

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作品情報

原題:Birds of Paradise
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年9月24日Amazon Prime Videoで配信開始
本編尺:1時間53分
監督:サラ・アディナ・スミス
出演:クリスティン・フロセス、ダイアナ・シルバーズ、キャロライン・グッドオール
ジャンル:ドラマ

あらすじ

ケイトは大きな夢を抱いている。その夢を叶えるため奨学金をもらい、パリの格式高いバレエ学校に入学。到着早々、彼女の実力を同級生のマリーンに試される。マリーンは双子の兄弟を亡くしたばかり。最初は対立する2人だが、しだいに心を通わせるようになり良きライバルとなっていく。ウソや性の目覚めに翻弄されつつも、すべてを犠牲にして、パリのオペラ座バレエ団入団の切符を賭けて闘う。

感想

評価:★★☆☆☆

パリのオペラ座バレエ団入団のひとつのイスをめぐっての徹底的な競争世界を愛憎交えて描き出す。ライバルを蹴落とそうとする前半から、あなたを蹴落としてまで勝ちたくないという聖なる誓いを立てる後半の転調。それは仲良し二人組が一緒に手を繋いでかけっこのゴールテープを切ると約束しながら、目の前にニンジンをぶら下げたらその友情や誓いはどこまで続くのかと試されている葛藤やスリルがある。

序盤にアメリカ人のケイトは出鼻をくじかれる。アメリカでは高さと力強さだけで評価されたかもしれないが、パリでは女性らしさが求められるから勘違いするな。その言葉はダンスの表現方法だけではない。パトロンやスポンサーのお眼鏡にかなう女性なのか、性の対象として品定めされる。

女性らしさを求められ、賞を撮る以外にゴールが設定されない物差しをぶち壊そうとする意志は、最終審査での二人の言動やダンスに集約され、その先の成功と自由の対比もエピローグとして描かれる。そんな分かりやすい展開で色々なことを謳い上げようとするあまり、映画的な盛り上がりやカタルシスや問題提起が整理できていない印象を受ける。

ドラッギーな映像表現や、抽象的な暗黒の舞台上で舞踏するシルエットなど、映像の見せ方や画面設計は趣向が凝らされている。だが、ドラッグ、セックス、ダンスという日常のループや同性愛的な場面など、家柄やカネがモノをいう欲望と競争の世界を彩る各要素に目新しさは感じられないのが物足りない。

 

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Amazon Prime Video 映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』感想(ネタバレあり)〜音が消えてなくなることで、見えてくる世界〜

Amazon Prime Videoオリジナル映画サウンド・オブ・メタル 聞こえるということネタバレ含めた感想です。主観と客観で聞こえる音を繊細に描き分け、完全に音が消えてなくなることで、見えてくる世界を体感させる脅威の演出は圧巻。

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(C)2020 Sound Metal, LLC. All Rights Reserved.

作品情報

原題:The Mad Women's Ball
製作年:2019年
製作国:アメリ
日本配信日:2020年12月4日Amazon Prime Videoで配信開始
本編尺:2時間
監督:ダリウス・マーダー
出演:リズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー
ジャンル:ドラマ

解説

「ヴェノム」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のリズ・アーメッドが主演を務め、聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描いたドラマ。共演に「レディ・プレイヤー1」のオリビア・クック、テレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のローレン・リドロフ、「007 慰めの報酬」のマチュー・アマルリック。監督・脚本は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命」の脚本家ダリウス・マーダー。Amazon Prime Videoで2020年12月4日から配信。第93回アカデミー賞で作品、主演男優、助演男優など6部門にノミネート。編集賞と音響賞の2部門を受賞。日本では2021年10月に劇場公開。

あらすじ

ドラマーのルーベンは恋人ルーとロックバンドを組み、トレーラーハウスでアメリカ各地を巡りながらライブに明け暮れる日々を送っていた。しかしある日、ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまう。医師から回復の見込みはないと告げられた彼は自暴自棄に陥るが、ルーに勧められ、ろう者の支援コミュニティへの参加を決意する。

感想

評価:★★★★★

まばたきによってしか自分の意思を伝えられない主人公の主観で描かれる潜水服は蝶の夢を見るという映画があったが、本作は耳が聞こえなくなっていくバンド男を主観と客観で聞こえる音を繊細に描き分けながらストーリーを進めていく。

映画でメタルバンドを描くと、反社会的で自堕落で自己破壊的な人物像になりがちだが、本作の主人公は彼女よりも早起きし、筋トレし、スムージーを作るルーティーンが描かれるように、非常に健康的だ。だからこそ、そのショックは計り知れない。

耳が聞こえなくなるというのは、耳が聞こえるか、完全に聞こえないか、という10ゼロの世界ではない。声は聞こえるが聞き取れない、通常よりも高い音に聞こえる、音にいちいちノイズが入ったり、こもる感じで聞こえるといった、微妙な匙加減を観客にも追体験させることで、主人公の内に籠った焦燥感や苛立ち、未知の世界に飛び込んでいくしかない恐怖がひしひしと自分事のように迫ってくる。

本作のラストも素晴らしい。耳が聞こえなくなっていく男が、都会の喧騒の中で補聴器を取る。そこで本編で初めて完全に音が消えてなくなることで、静寂をポジティブに描いてみせる。聾唖者と過ごした日々や、そこで得た人生の価値。どこにいても、それを思い出させてくれ、また自分の居場所を感じることができる。静寂を勝ち取った彼の人生は、決して回り道ではなく、未来へと拓かれているように思える傑作だ。 

 

 

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映画『くれなずめ』感想(ネタバレあり)〜暮れそうでなかなか暮れない青春〜

映画『くれなずめ』ネタバレ含めた感想です。暮れそうでなかなか暮れない青春を最後に謳歌し成仏させようとする男たちの泥臭く青々しい悪あがき。

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(C)2020「くれなずめ」製作委員会

作品情報

製作年:2021年
製作国:日本
公開日:2021年5月12日
本編尺:1時間36分
監督:松居大悟
出演:成田凌若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、高良健吾
ジャンル:ドラマ

予告編

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解説

「アズミ・ハルコは行方不明」「君が君で君だ」の松居大悟監督が、自身の体験を基に描いたオリジナルの舞台劇を映画化6人の仲間のうち、主人公・吉尾和希を成田凌、舞台演出家として活躍する藤田欽一を高良健吾、欽一の劇団に所属する舞台俳優・明石哲也を若葉竜也、後輩で唯一の家庭持ちであるサラリーマン・曽川拓を浜野謙太、同じく後輩で会社員の田島大成を藤原季節、地元のネジ工場で働く水島勇作を目次立樹がそれぞれ演じる。

あらすじ

高校時代に帰宅部でつるんでいた6人の仲間たちが、友人の結婚披露宴で余興をするため5年ぶりに集まった。恥ずかしい余興を披露した後、彼らは披露宴と二次会の間の妙に長い時間を持て余しながら、高校時代の思い出を振り返る。自分たちは今も友だちで、これからもずっとその関係は変わらないと信じる彼らだったが…

感想

評価:★★☆☆☆

「くれなずむ」という言葉は、完全に日が暮れそうでなかなか暮れないでいる状態を指す。本作で言えば、その「日」は成田凌ということだろう。5年ぶりに再会し馬鹿騒ぎをする男どもは、忘れられそうで忘れられない成田凌という存在を自分の中から成仏させるために、そしてみっともない自分の青春を精算するために、5年前をなぞってみせる。

リハーサルや余興や二次会という本番ではない場にスポットライトを当てつつ、社会の片隅でダルくもがく男たちにとって、暮れそうでなかなか暮れないでいる「青春」を最後に謳歌しているようにも見える。彼らが「暮れなずめ」と断腸の思いで願っていることは、必死に前を向き、生きづらい今を生きようとしている証だ。ただ青春をノスタルジックに振り返ろうとすることを強制的に避けようとしているのには好感が持てる。

だが、コントや踊りを交えた終盤の跳躍によって、本作のリアリティライン自体が崩れてしまうのが気になる。『アズミ・ハルコは行方不明』『君が君で君だといった松居大悟作品と同様に、物語が跳躍することでのカタルシスが薄い。青臭くて泥臭い男子たちの部活感を描く作品よりも、女子を主人公にした一癖ある青春映画のほうが魅力的に撮れる監督だと改めて思う。

 

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映画『まともじゃないのは君も一緒』感想(ネタバレあり)〜ある一定の価値観を押し付けない心地よさ〜

映画『まともじゃないのは君も一緒』ネタバレ含めた感想です。成田凌と清原果耶のまるで素のような会話劇の圧倒的な面白さと、ある一定の価値観を押し付けない作りてのバランス感覚が光る傑作。

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(C)2020「まともじゃないのは君も一緒」製作委員会

作品情報

製作年:2021年
製作国:日本
公開日:2021年3月19日
本編尺:1時間38分
監督:前田弘二
出演:成田凌、清原果耶、山谷花純小泉孝太郎泉里香
ジャンル:恋愛

予告編

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解説

婚前特急」の監督・前田弘二と脚本・高田亮が再タッグを組み、成田凌と清原果耶がダブル主演を務めた恋愛ドラマ。

あらすじ

人とのコミュニケーションが苦手で、数学ひと筋で生きてきた予備校講師の大野。今の生活に不満はないが、このままずっと1人でいることに漠然とした不安を抱えている。世間知らずで「普通」が何かわからない彼は、女の子とデートをしてもどこかピントがずれているような空気を感じる。教え子の香住は、そんな大野を「普通じゃない」と指摘してくれる唯一の相手だ。恋愛経験はないが恋愛雑学だけは豊富な香住に、「普通」を教えてほしいと頼み込む大野だったが…。

感想

評価:★★★★★

日本映画はスケールが小さくてつまらない、自分の半径数メートルの話に縮こまっている、というのはよく言われる批判だ。だが一方で、近年の日本映画の会話劇の面白さは群を抜いているとも思う。それは今泉力哉を筆頭に、作家性や画の力でグイグイ引っ張るのではなく、俳優の地に足のついた存在感や、その場の空気感を大切にし、その中から人間の悲喜こもごもの滑稽さや愛らしさを引き出すような映画だ。そして本作もそのような魅力に満ち満ちている。

仲間の輪に入っているようで、世の中を斜めに見ていて、年上の大人に憧れる清原果耶。会話が進むにつれ拗らせているのが露わになり、相手が言ったことをそのまま聞き返す癖があり、笑いのツボがずれていて笑い方が変で、デリカシーもない成田凌下手をすれば極端な戯画的なキャラクターになりそうなものを、まるで素のようにキャラクターを自分のものにし血を通わせる二人の演技がまずは素晴らしい。

清原果耶は恋愛、成田凌は結婚を意識し、それぞれゴールに辿り着くにはどうすればいいのか計画を立て、実行する。そんな中で、分からないことは分からないと言える、自分を変えるために教えてほしいと頭を下げる姿が清々しい。ここから二人の計画のベクトルがズレていき、想いが交錯していくと共に、魅力ある人間へと確実に成長していく過程を会話で丁寧に紡いでいく。

この映画が素晴らしいのは、ある一定の価値観を押し付けないところだ。実は尊敬に値しない男だと分かった小泉孝太郎が言う。大切な人とは付き合いが雑になる。それを当たり前だとお互いが思っていれば、うまい付き合いが長くできるのではないかと信じたい。それは不倫の言い訳にも聞こえるが、それでも相手を断罪せずに、結婚というのを受け入れていくのもまた真理かもしれないという余地を残すバランスが見事だ。

また「普通」「まとも」というのを主題にすると、結局は個性を大事にという着地になりがちだ。だが、本作は普通は何かを諦めるための口実なのかと突きつけながらも、個性が強いがゆえの孤独や疎外感と、普通やまともであることへの憧れや学びも肯定する。あるいは、いわゆる「普通」側の人間も実は普通には振る舞いたくないという価値観の反転する場面を入れることで、そこに揺さぶりをかける。この正しさを追い求めない押し付けがましくなさを、さらりと描いていくバランス感覚がとにかく心地よい。

Netflix映画『ムクドリ』感想(ネタバレあり)〜家族という縄張りを守ること〜

Netflixオリジナル映画ムクドリネタバレ含めた感想です。縄張り意識の強いムクドリという鳥と一組の夫婦の関係の変化から、家族という縄張りを守ることについて描き出す。

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作品情報

原題:The Starling
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年9月24日Netflixで配信開始
本編尺:1時間44分
監督:セオドア・メルフィ
出演:メリッサ・マッカーシー、クリス・オダウド、ケヴィン・クライン
ジャンル:ドラマ

予告編

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あらすじ

大切な人を失ったひとりの女性。自宅の庭をめぐって攻撃的な鳥と戦う日々をきっかけに、自らの抱える悲しみ、そして前に進めずに苦しむ夫と向き合ってゆく。

感想

評価:★★★☆☆

タイトルにもなっているムクドリは、賢いから脅しても逃げず、縄張り意識の強い攻撃的な鳥だ。だが、それは木に巣を作り子供を育てている親ゆえの防衛行動であり、だからこそ誤解されやすい。

子育てするムクドリの親と、娘を失った妻と夫にとって、その大木は自分の家であり庭である。そんな彼らが仲良く共生するわけではなく、互いに威嚇と防衛しながら、それでも大事な場所を守っていこうとする幕引きがチャーミングであり、誠実な着地で好感が持てる。

傑作『ドリーム』を手掛けたセオドア・メルフィだけあり、一度も娘に履かせることが出来なかった靴下、相手と向き合い対話する象徴としての安楽椅子といった小道具の使い方、そして消し去ることができない娘の喪失感を、カーペットにできた家具の痕を手で必死に消そうとする演出の繊細さは見事だ。

一方で、そんな夫婦が心の傷を受け入れ乗り越える方法や時間の違いを認め合いながら、二人で前を向くことを模索していこうとするまでをかなりのスローペースで描いているため、やや冗長に感じてしまうのも事実ではある。