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Amazon Prime Video 映画『サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ』感想(ネタバレあり)〜音が消えてなくなることで、見えてくる世界〜

Amazon Prime Videoオリジナル映画サウンド・オブ・メタル 聞こえるということネタバレ含めた感想です。主観と客観で聞こえる音を繊細に描き分け、完全に音が消えてなくなることで、見えてくる世界を体感させる脅威の演出は圧巻。

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作品情報

原題:The Mad Women's Ball
製作年:2019年
製作国:アメリ
日本配信日:2020年12月4日Amazon Prime Videoで配信開始
本編尺:2時間
監督:ダリウス・マーダー
出演:リズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー
ジャンル:ドラマ

解説

「ヴェノム」「ローグ・ワン スター・ウォーズ・ストーリー」のリズ・アーメッドが主演を務め、聴覚を失ったドラマーの青年の葛藤を描いたドラマ。共演に「レディ・プレイヤー1」のオリビア・クック、テレビシリーズ「ウォーキング・デッド」のローレン・リドロフ、「007 慰めの報酬」のマチュー・アマルリック。監督・脚本は「プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ 宿命」の脚本家ダリウス・マーダー。Amazon Prime Videoで2020年12月4日から配信。第93回アカデミー賞で作品、主演男優、助演男優など6部門にノミネート。編集賞と音響賞の2部門を受賞。日本では2021年10月に劇場公開。

あらすじ

ドラマーのルーベンは恋人ルーとロックバンドを組み、トレーラーハウスでアメリカ各地を巡りながらライブに明け暮れる日々を送っていた。しかしある日、ルーベンの耳がほとんど聞こえなくなってしまう。医師から回復の見込みはないと告げられた彼は自暴自棄に陥るが、ルーに勧められ、ろう者の支援コミュニティへの参加を決意する。

感想

評価:★★★★★

まばたきによってしか自分の意思を伝えられない主人公の主観で描かれる潜水服は蝶の夢を見るという映画があったが、本作は耳が聞こえなくなっていくバンド男を主観と客観で聞こえる音を繊細に描き分けながらストーリーを進めていく。

映画でメタルバンドを描くと、反社会的で自堕落で自己破壊的な人物像になりがちだが、本作の主人公は彼女よりも早起きし、筋トレし、スムージーを作るルーティーンが描かれるように、非常に健康的だ。だからこそ、そのショックは計り知れない。

耳が聞こえなくなるというのは、耳が聞こえるか、完全に聞こえないか、という10ゼロの世界ではない。声は聞こえるが聞き取れない、通常よりも高い音に聞こえる、音にいちいちノイズが入ったり、こもる感じで聞こえるといった、微妙な匙加減を観客にも追体験させることで、主人公の内に籠った焦燥感や苛立ち、未知の世界に飛び込んでいくしかない恐怖がひしひしと自分事のように迫ってくる。

本作のラストも素晴らしい。耳が聞こえなくなっていく男が、都会の喧騒の中で補聴器を取る。そこで本編で初めて完全に音が消えてなくなることで、静寂をポジティブに描いてみせる。聾唖者と過ごした日々や、そこで得た人生の価値。どこにいても、それを思い出させてくれ、また自分の居場所を感じることができる。静寂を勝ち取った彼の人生は、決して回り道ではなく、未来へと拓かれているように思える傑作だ。 

 

 

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