映画『BLUE/ブルー』感想(ネタバレあり)〜挑戦者であり、敗者であり続ける青コーナーの誇り〜
映画『BLUE/ブルー』ネタバレ含めた感想です。挑戦者であり、敗者であり続ける青コーナー。責任と覚悟を伴うボクシング人生の終わりと夢を追った証を身体に刻み込んだ男たちの物語。
作品情報
製作年:2021年
製作国:日本
公開日:2021年4月9日
本編尺:1時間47分
監督:吉田恵輔
出演:松山ケンイチ、木村文乃、柄本時生、東出昌大
ジャンル:青春、スポーツ
予告編
解説
「ヒメアノ~ル」「犬猿」の吉田恵輔監督によるオリジナル脚本で、ボクシングに情熱を燃やす挑戦者たちの熱い生き様を描いたドラマ松山ケンイチが主演を務め、後輩ボクサーの小川を東出昌大、初恋の人・千佳を木村文乃、新人ボクサーの楢崎を柄本時生が演じる。
あらすじ
ボクサーの瓜田は誰よりもボクシングを愛しているが、どれだけ努力を重ねても試合に勝てずにいた。一方、瓜田の誘いでボクシングを始めた後輩・小川は才能とセンスに恵まれ、日本チャンピオンに王手をかける。かつて瓜田をボクシングの世界へ導いた初恋の女性・千佳は、今では小川の婚約者だ。強さも恋も、瓜田が望んだものは全て小川に奪われたが、それでも瓜田はひたむきに努力し続ける。しかし、ある出来事をきっかけに、瓜田はこれまで抱えてきた思いを2人の前で吐露し、彼らの関係は変わり始める。
感想
評価:★★★★☆
BLUE=青コーナー
本作の題材となっているボクシングでは、赤コーナーに王者、青コーナーに挑戦者という図式で拳を交わします。本作の登場人物たちは青コーナー側の人間です。それは負け続けてもリングに立ち続ける松山ケンイチであり、チャンピオンまであと一歩というところで病に蝕まれていく東出昌大であり、そんな2人を見てボクシングにのめり込んでいく柄本時生です。
一方で、ずっと青コーナーに立つということは、王者になれないという意味でもあります。基本に忠実だからといって、才能があるからといって、誰よりもボクシングへの想いが強いからといって、それが決して勝利に直結するわけではない。試合に向けてのそれぞれの物語がありながらも、リング上では赤コーナーも青コーナーに忖度なしに対等に拳を突き合わせ、それを冷静に見つめる作り手のフェアな視点が光ります。
身体に染み付くボクシングのリズム
自分をかっこよく見せるためにという理由でジムに入った柄本時生がボクシングにのめり込む姿を描く序盤はとにかく軽快。ですが、彼の喜びのステップに観るものも歩調を合わせたところで、拳のおっかなさと責任をリアルな描写で突きつけてくる転調、そしてそれでもボクシングを続ける覚悟を描くことで、本作は一気に熱量を帯びていきます。
一方で、松山ケンイチと東出昌大はボクシング人生という青春の終わりを感じながらも、それでも夢のような何かに向かって奮闘します。特にもはや何のためにボクシングを続けているのかわからない松山ケンイチの自虐の裏に秘めた想いやプライドが垣間見える瞬間に胸が熱くなります。人前では明るく振る舞いながらも、一人でいるときにはボーッと先を見つめる視線だけでこの男の人生を物語る静かな演出は見事です。
また東出昌大も、ランニングしながら霧の中へ消えていく幻想的なショット、あるいは病によって背景がぼやけ歪んでいく不安定なショットを挿入することで、視覚的に彼の未来への不安を描き出してみせます。そんな2人を見つめる木村佳乃のポジショニングも絶妙で、この手の映画にありがちな主人公を影で支えるヒロイン的な役割ではなく、2人の人生にがっつりと関与し、絶妙な距離感で、彼らのボクシング人生の始まりと終わりを見届けます。
2人とも次の人生を歩みだし、もうリングに上がることはないでしょう。ですが、気がついたら早朝にランニングをし、あるいは新たな勤め先の魚市場でリズミを刻みながら自然とシャドーをしてしまう。その身体に染み付いたリズムの激しさと美しさが、かつて夢を追うために本気で努力した人間の証だと思います。