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Netflixドキュメンタリー映画『ボブ・ロス 楽しいアクシデント、裏切りと欲』感想(ネタバレあり)〜絵画教室の裏側にある搾取〜

Netflixオリジナルのドキュメンタリー映画ボブ・ロス 楽しいアクシデント、裏切りと欲』ネタバレ含めた感想です。テレビ番組で大人気となったボブ・ロスの願いとは裏腹に、周囲に搾取され続けている構造を浮き上がらせます。

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作品情報

原題:Bob Ross: Happy Accidents, Betrayal & Greed
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年8月25日Netflixで配信開始
本編尺:1時間33分
監督:ジョシュア・ロフェ
出演:ボブ・ロス
ジャンル:ドキュメンタリー

予告編

youtu.be

あらすじ

絵を描く楽しさを教えることで世界中の人に幸せを運んだ画家、ボブ・ロス。だがその事業をめぐる激しい争いが、彼が描いた"ステキな木"に暗い影を落とす。

感想

評価:★★★☆☆

 

ボブ・ロス人気

ボブ・ロスは1983年から1994年にかけてアメリカで放送されたテレビ番組ボブ・ロスの絵画教室』で人気者となり、日本をはじめ全世界でも放送されました。その風貌と穏やかな語り口、そして26分の番組内で白いキャンバスに風景画を書いてしまう驚異的な画法は一度観たら忘れられないでしょう。

個人的にはこのドキュメンタリーを見るまでは番組や彼の存在も一切知らなかったのですが、確かにこのやり方であれば自分にもできるかもしれないと、筆をとって絵を描いてみようという思いに駆られる気持ちはとても良く分かります。絵画番組では記録的な長寿番組になったのも納得です。

 

搾取しようとする者

本作はそんなボブ・ロスの成功と、52歳という短命で生涯を終えた人生をただ振り返るものではありません。人気者で寡黙な本人と、ビジネスパートナーとしてにじり寄るコワルスキー夫婦との奇妙な共同生活、そして彼の死後に現在も続く搾取の構造を、それを間近で見てきたボブ・ロスの息子の証言を中心に浮かび上がらせていきます。

ボブ・ロスの所有していた財産や権利を主張し、彼のキャラクターを商品化し、絵画教室を乗っ取りた挙げ句に複製まで作ってしまう。そこにはアートへの愛や、ボブ・ロスへのリスペクトは微塵も感じられません。現在進行形で続く著作権や肖像権の問題は、広い意味での「芸術」の世界の暗部を映し出します。

 

ボブ・ロスの願い

ボブ・ロスは白いキャンバスに得を書くことが、嫌な現実を忘れることができる唯一の逃げ場所であり絵を書くことでみんな価値のある人間だと気づいてほしいと語っています。さらに、完成間近の絵の上からあえて他の色を事故的に塗ってしまうことで、楽しいアクシデントを修正する方法と新たな道のりを見つけてほしいというメッセージを番組内で伝えていました。

ボブの願いと全く違う方向に事業は進んでしまった一方で、世界中の視聴者や教え子たちは、その精神を引き継ぎ、また絵を書くことによって救われた人たちが全世界でたくさんいることでしょう。そんな芸術のポジティブな面も、本作は同じように描いています。その多面性がドキュメンタリーとしての面白さを引き立てていると思いました。