Netflix映画『彼女』感想(ネタバレあり)〜彼女たちと世間や社会との距離〜
Netflixオリジナル新作映画『彼女』ネタバレを含めた感想です。原希子とさとうほなみのセンセーショナルな愛の逃避行は見応えたっぷりだが、問題点も多々ある映画だと思います。
あらすじ
裕福な家庭に生まれ育ち、何不自由ない生活を送ってきたレイ(水原希子)はある日、高校時代に思いを寄せていた七恵(さとうほなみ)から連絡を受け、10年ぶりの再会を果たす。しかし喜びも束の間、夫からのDVで全身あざだらけな姿を目の当たりにし愕然とする。追い詰められ死を口にする七恵に「それならば夫が消えるべきだ」と諭すレイ。そして「だったら殺してくれる?」と呟く七恵。彼女が生きるためにレイは、七恵の夫を殺す。そして行くあても、戻る場所もないふたりは共に逃避行に出る。
感想
評価:★★☆☆☆
ピンク映画出身の廣木隆一は、最近はキラキラ恋愛映画を撮る職人として名を馳せているものの、元々は『ヴァイブレータ』『軽蔑』『さよなら歌舞伎町』といった訳ありな男女の性や愛を一貫して描いてきた。そんな廣木監督に水原希子とさとうほなみによるセンセーショナルな愛の逃避行が託されたのは適任だと言える。ふたりの息遣いを逃すまいと長回しで空気をまるごと刻もうとする意図と、それに応えるふたりの熱演は見応えたっぷりだ。
もう死んでもいいと、厭世的に、やけっぱちに世間から離れていく二人の姿は『テルマ&ルイーズ』のようなロードムービーを連想させる。10年という月日によって生まれた空白を埋め、そこから解放してあげる旅路。道中で七恵の実家や、レイの別荘を巡り、最終的に行き着く海辺の小屋で愛し合うふたり。家族と過ごした場所から開放され、この世の果てでふたりだけの時間と空間を共有できる場所を見つけるまでの過程も、フラッシュバックを効果的に挿入しながら、淀みなく語られていく。
だが、本作で致命的なのは、彼女たちの言動を「なぜ人殺したかわからないけど、当人同士が納得してたりゃそれでいい」と台詞が代表するように、レズビアンは結局社会から阻害されるような生き方しかできないというような印象を持たせてしまう点だ。ふたりの台詞も何かを代弁させられているかのように常に深刻で、例えば「バカなレズの人殺し」と自分自身を卑下する必要があるのだろうか。
また彼女たちと世間や社会との接点となるキャラクターたちの描写も書き割り的で酷い。特に男性の書き割り的な描かれ方は極端で、DV夫、性交渉を強要するタクシー運転手、正論だけをひたすら繰り返すレイの兄と、男のクズさ加減を際立たせることで、彼女たちの逃避行を正当化させるためのアイテムに過ぎない。一切変装もしない目立った出で立ちの彼女たちを追う警察の無能さも気になるため、最後に自首して第三者に引き離されるドラマチックな場面が全然盛り上がらないのは辛いものがある。