Netflix映画『この茫漠たる荒野で』感想(ネタバレあり)〜「世界を物語る」ことによって、誰かを救うことができる〜
Netflixオリジナル映画『この茫漠たる荒野で』ネタバレを含めた感想です。『ペンタゴン・ペーパーズ』に出演したトム・ハンクスが、この役柄を演じたことも大きなポイントだと思います。
あらすじ
南北戦争が終結して5年。退役軍人のジェファソン・カイル・キッドは、各地を転々としながら世界のさまざまなニュースを読み伝える仕事をしていた。そんな旅の途中、キッドはジョハンナという10歳の少女と出会う。6年前にネイティブアメリカンに連れ去られ、そこで育てられたジョハンナは、英語もわからず見知らぬ外の世界に困惑していた。見かねたキッドは、彼女を親族のもとへ送り届ける役目を引き受ける。2人は厳しい自然や人間たちによってもたらされる試練に直面しながらも、荒野を進んでいく。
感想
評価:★★★★☆
南北戦争直後の傷心のアメリカで、戦争に従事し現在は町を回って新聞記事を物語ることを生業としているキッド大尉と、インディアンに育てられたドイツ人少女ジョハンナの壮大なオデッセイ。互いの言葉もほぼ通じない状況下で、徐々に心を通わせる過程が実に自然。特に、売春目的で子供を買おうと迫ってくる男たちに対し、空砲に10セント硬貨を詰めて応戦することで窮地を切り抜ける場面は、インディアンに育てられたからこその文化や知恵が大尉を救うという重要なポイントであり、高低差を生かした空間演出含めてグリーングラスの手腕が光る。
少女を元の居場所に還そうとする旅路は、生みの家族も、育ての家族も、唯一の親戚もいないという悲劇を幼き少女に突きつける過酷な旅である。シンプルな道行きから、入植者と土地を巡って血で血を洗うインディアンの歴史、さらには金持ちの捨て駒として貧乏人同士が争った北軍と南軍の歴史が浮かび上がり、そんな大人たちの野蛮さの狭間で、居場所を失った少女のまっすぐな眼差しが、随所で挿入される空撮と相まって、未来を「直線」的に照らし出す。
そんな少女の見つめるトム・ハンクスの眼差しに心打たれる。本作の原題が「News of the World」であることが示唆するように、彼は「世界を物語る」ことによって少女を救い、そして彼女とともに「新しい世界」を生きようとする。新聞は各地のニュースを活字で紹介する媒体だが、無数の言葉が集まって物語を形成し、それを物語ることによって、人の心を動かし、救うことだってできる。そんな力を肯定する、力強い物語だ。