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Netflix映画『マルコム&マリー』感想(ネタバレあり)〜夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜〜

Netflixオリジナル映画『マルコム&マリー』ネタバレを含めた感想です。夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜。きっと朝には、モノクロの世界が、また元通りの色を取り戻すはず…。

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<作品情報>

原題:Malcolm & Marie
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年2月5日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間46分
監督:サム・レビンソン
出演:ゼンテイヤ、ジョン・デビッド・ワシントン
ジャンル:ドラマ

<予告編>
 

あらすじ


新作映画のプレミア上映を終えた映画監督マルコムは、恋人マリーとともに帰宅する。映画を称賛され上機嫌のマルコムに対し、マリーはなぜか不満を抱えている様子。批評家たちの反応を待ちながら会話を続けるうちに、2人の関係に潜む問題が浮かび上がってくる。

 

感想


評価:★★★☆☆

冒頭からモノクロの世界で夫婦と思しき男女が会話しているものの、興奮冷めやらぬマルコムの動きと合わせてカメラもせわしなく動き回る一方で、それを受けるマリーの表情は冷めており、そんな彼女をカメラもフィックスで映し出す。この冒頭から、二人の間には互いの感情を共有できない温度差のようなものが際立つ演出になっている。

その後、どうやらマルコムは映画監督で、お祝いのスピーチの場でほとんどの関係者には謝辞を述べたものの、本作の主人公のモデルとなった妻への感謝を忘れたことが発端になったことが判明する。ここから永遠と繰り広げられる夫婦喧嘩によって、本作で二人しか登場しないキャラクターの支配欲、承認欲、自意識、共依存、そして夫婦という不可思議な関係性までの時の流れを観客にも追体験させる仕組みだ。

マルコムは映画のモデルとして、妻として、そして女優としてのマリーにそれぞれ感情的かつ論理的にまくし立てる。彼女を形成しているそれぞれの側面に対して、正論を浴びせかける様は痛々しい。自分の存在価値を隣でアピールする恩着せがましい奴、映画は現実の再現ではなく解釈が大切なのだからお前が演じなくてもいい。そういった「口撃」をとともに、彼女が元ジャンキーだという生い立ちや、自分の女性遍歴をまぶしてくるのだからタチが悪い。

一方でマリーも、自分の酷い思い出を他人が演じることで美しい映画に昇華され、当事者である自分だけが置いてきぼりにされる感情を吐露する。大卒の特権階級である夫が、自分の体験を利用して苦渋をなめたから本作が作れたと世間から評価されることが許せない。そんなマルコムとマリーの言葉の応酬はまるで主導権をめぐる試合を見ているようであり、劣勢に立たされても決して食い下がらない様は滑稽でもある。

だが、最終的に言い合いに疲れた傷ついた二人は「あなたを叱れるのは私だけ」と寄り添う。そんな夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜。きっと朝には、モノクロの世界が、また元通りの色を取り戻すはずだ。

 

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