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Netflix映画『バック・ノール』感想(ネタバレあり)〜刑事のモラルと正義が問われる、硬派な実録アクション〜

Netflixオリジナル映画『バック・ノール』ネタバレ含めた感想です。刑事のモラルと正義が問われる、実話に基づいた硬派な実録クライム・アクションの傑作。

 

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作品情報

原題:BAC Nord
製作年:2020年
製作国:フランス
日本配信日:2021年9月17日Netflixで配信開始
本編尺:1時間45分
監督:セドリック・ヒメネス
出演:ジム・ルルーシュ、カリム・ルクルー、フランソワ・シビル
ジャンル:クライム

予告編

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あらすじ

マルセイユで小さな事件ばかりを扱っていた3人の刑事に訪れた、大規模麻薬組織摘発の機会。だが、情報提供者にある条件を提示され、彼らは窮地に立たされる。

感想

評価:★★★★☆

 

冒頭から静止を振り切られ逃亡を許したにもかかわらず、軽口を叩きあう3人の刑事の会話の面白さとそれぞれの素性をテンポよく描きながら、一世一代の仕事へ向けて着々と準備を進める序盤は軽快そのもの。海を目前にしたまるで陸の孤島にそびえ立つ白い白のようなアジトとなる団地。そこに住まう住民は諦め、地元警察も見て見るふりをしている現状はありながらも、彼らの凶暴性や攻撃性はそれほど具体的に描かれないため、軽いケーパーものだと高を括っていたら痛い目にあう。その転調が素晴らしい。

連想するのは同じくフランスを舞台にしたラジ・リ監督の大傑作『レ・ミゼラブルだ。団地に押し寄せる警察隊と、迎え撃つギャングたちの一触即発の緊張感。それぞれが銃を突きつけ罵り合うハイテンションと、建物の階段を駆け上がりアジトへと足を踏み込む静と動の極限状態のメリハリ。団地という構造を見事に活かしきった迫力ある場面の連鎖と、入念な準備を経ているからこそ、それぞれのアクションの目的が明確なのがいい。最後に車に乗ってバックで脱出する際の、周囲を敵で囲まれた圧による恐怖は只事ではない迫力で、硬派な実録アクション映画としての正体が明らかになる。

だが本作はそこで終わらない。英雄として祭り上げられた三人は一瞬のうちに地獄を見ることになる。組織から回収した麻薬を情報提供者へ報酬として渡したことが、密売の罪で逮捕される。上司には知らなかったとシラを切られ、完全に四面楚歌になる彼ら。無罪になりたいのなら、情報提供者の名前を教えろと脅される。ここで問われるのは、刑事としてのモラルであり、もっと大きな「正義」を貫くことの意味である。

これが実話を基にした作品だというのだから驚きだ。すっかりやつれて目が死んだ彼らが下してしまう決断と、あまりの後味の悪い苦味と、もはや正義はどこにも残っていない虚しさ。ギターの旋律とともに、彼らの退場の仕方が胸に染みるクライムアクションの傑作と言っても過言ではない。