Netflix映画『密航者』感想(ネタバレあり)〜誰かの死を一瞬たりとも願ってしまったことに対する罪悪感〜
Netflixオリジナル映画『密航者』ネタバレを含めた感想です。狭い宇宙船を舞台に他人の幸せのために何を犠牲にするのか。単純明快なシチュエーションで展開するダウナーなSFです…。
あらすじ
ミッション遂行のため、火星へと向かう3人の宇宙飛行士。だが、予定外の人物が宇宙船に乗り込んでいたことで、全員の命が危険にさらされ、難しい決断を迫られる。
感想
評価:★★★☆☆
単純明快なシチュエーション
全員を救うには物資が足りない場合にどうするかという古典的なストーリーを宇宙を舞台に作ってみたかったとペナ監督がインタビューで語っているように、密室での単純明快なシチュエーションが軸となっています。
それは、船内の酸素が足りないので誰かひとり降りなければ全員は助からない、そのためには酸素を自力で増やす方法を考えなければならない、あるいは誰かひとり降りて酸素の消費量を減らさなければならないという、宇宙で生存するための絶対的なルールです。
そして船内のクルーに船長、医師、博士、エンジニアとそれぞれに別の役割を与えることで、生き残るために利害関係が生じ、明快なストーリーに複雑な思惑が挟まってくるところがポイントです。
そのうえで本作は徹底して交信相手の姿はおろか、声も聞かせない演出も徹底しています。それによって、地球側の人々の応答や指示も一切分からないため、一度乗った船、自分たちでなんとかしないといけない状況がより強調されており、とても効果的でした。
デビッド博士がジャズを好きな理由
中盤に、デビッド博士とマイケルが船内の研究室で何気なくする会話する場面があります。そこでデビッドは、調和は取れているが、たまに主旋律から外れるところがジャズが好きな理由だ、と話します。
ここでいう調和とは、訓練を受けて計画通りにミッションを遂行しようとする3人のクルーであり、主旋律から外れるとは、予定外の人物であるマイケルが宇宙船に乗り込んでいたアクシデントを指しているように感じます。(その後、デビッドがマイケルに自殺を勧める展開は流石にやりすぎだと思いますが…)
そのうえで、人を救うためには主旋律を外れる、リスクを犯すことも必要というヒューマニズム的な見せ場が待ち受けますが、それが成功するとは限らないというのが本作の意地の悪さであり、酸素を求めて船外に出てひたすら高い塔を登り、勢いよく落ちていくゾーイ医師の姿は、まさに希望から絶望の底に突き落とされる感覚に陥ります。
ラストシーンの解釈
ラストで太陽嵐がやって来る警告のなかで、再びゾーイ医師は船外にひとりで歩き出してゆきます。そこで見せるアナ・ケンドリックの覚悟と諦念が入り混じった表情が素晴らしく、物語もはっきりとした結末は示さずに幕引きを迎えます。
奇跡的に酸素補給ができて4人で助かるのか。任務が失敗しゾーイ以外の3人で助かるのか。任務が失敗しデビッドが自ら命を絶ってしまうのか。あるいは、1人分の酸素を作り出すと見込まれている藻の栽培にも失敗し、2人しか助からないのか。
何故2人乗りの宇宙船に3人のクルーが乗り込んでいるのかというそもそもの疑問はありますが、奇跡的に全員が生き残ったにせよ、誰かの死を一瞬たりとも願ってしまったことに対して、罪悪感に苛まれる人生を送ってしまいそうです…。