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映画館のない離島から、NetflixやAmazonプライムビデオの新作配信映画を中心に爆速レビュー!

映画『ワンダーウーマン1984』感想(ネタバレあり)〜人々に願いを取り下げるよう説くヒーロー〜

映画ワンダーウーマン1984ネタバレを含めた感想です。力を行使して悪を倒すというヒーロー像から、相手の良心や正気を信じて訴えかけるヒーロー像への変革が新しい、見事な作品です。

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(C)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved TM & (C) DC Comics
<作品情報>

原題:Wonder Woman 1984
製作年:2020年
製作国:アメリ
公開日:2020年12月18日
本編尺:2時間31分
監督:パディ・ジェンキンス
出演:ガル・ガドットクリス・パインクリステン・ウィグ
ジャンル:アクション

 

 

解説

DCコミックスが生んだ女性ヒーロー、ワンダーウーマンの誕生と活躍を描き、全世界で大ヒットを記録したアクションエンタテインメント「ワンダーウーマン」の続編。前作でもメガホンをとったパティ・ジェンキンス監督のもと、主人公ダイアナ=ワンダーウーマンを演じるガル・ガドットが続投し、前作でダイアナと惹かれあった、クリス・パイン演じるスティーブも再び登場する。

 

あらすじ

1984年、人々の欲望をかなえると声高にうたう実業家マックスの巨大な陰謀と、正体不明の敵チーターの出現により、最強といわれるワンダーウーマンが絶体絶命の危機に陥る。

 

感想

評価:★★★☆☆

 

スーパーヒーローというのは、全世界の人々の願いを背負い、その託されたものをパワーに変え、叶えようと頑張るもの。ですが、本作のワンダーウーマンことガル・ガドットは全世界の人々へ向けてモニター越しに、願いを取り下げるように説き、愛に満ちたありのままの世界の美しさと、愛されたいと願う必要はないと請います。そこが、この作品の特出すべき点でしょう。

 

世界中の人々が自分の願いを叶えるためだけに行動したらどうなるか。本作はわざわざトランプ似の俳優にアメリカ合衆国の大統領役をやらせることも含め、欲望と金にまみれた先にある願いと願いとぶつかり合いや代償を描いてみせます。力を持ってしまえば人が変わってしまう、だからこそ今のフェイクニュースばかりの世の中では正気を保つこと、そして真実を見極めることの大切さを訴えかけます。

 

ワンダーウーマンも代償として、愛する人を喪失する選択をします。パイロットである彼と再会し花火の上を飛行機で飛ぶナイトデートのロマンチックな場面を、終盤で彼と別れていよいよ敵と対峙するまでに同じルートを辿ることで反芻する演出も見事です。ここでの彼女の決意に満ちた表情と、スーパーヒーローの象徴である『スーパーマンのポーズを取る場面は印象的です。

 

もちろんガル・ガドットのファッションショー的な楽しさはありますが、前作よりは終盤のカタルシスや戯画的なケレン味も抑え気味で物足りないと感じる人がいるかも知れません。ですが、力を行使して悪を倒すというヒーロー像から、相手の良心や正気を信じて訴えかけるヒーロー像への変革が新しい、見事な作品だと思います。

 

Netflix映画『最高に素晴らしいこと』感想(ネタバレあり)〜橋の上から飛び降りそうなティーンたち〜

Netflixオリジナル映画『最高に素晴らしいこと』ネタバレを含めた感想です。橋の上から今にも飛び降りそうなエル・ファニングから始まり、終盤に予想外の展開を迎える痛みを伴う青春映画です。

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<作品情報>

原題:All the Bright Places
製作年:2020年
製作国:アメリ
日本配信日:2020年2月28日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間48分
監督:ブレット・ヘイリー
出演:エル・ファニングジャスティス・スミス、アレクサンドラ・シップ
ジャンル:青春

 

あらすじ


インディアナ州の小さな町。高校生のセオドアは、同級生のバイオレットが橋から飛び降りようとしている場面に遭遇する。彼女は数カ月前に姉を交通事故で亡くして以来、周囲に心を閉ざしていた。自身も精神面に問題を抱えるセオドアはバイオレットのことが気になり始め、州内の名所を巡る学校の課題のパートナーに彼女を指名する。嫌々ながらも課題に取り組み始めたバイオレットは、セオドアと過ごすうちに笑顔を取り戻していくが…。

 

感想


評価:★★★☆☆

橋の上から今にも飛び降りそうなエル・ファニングの側に突然立って説得する黒人青年。本作はその後、フィールドワークという名目で2人1組となり様々な土地を巡るが、2人が並列したり、並走したりと、隣り合わせの場面が目立つ。それは、黒人青年が彼女と同じ目線や心情に立つことで、真に寄り添うための演出かと思わされる

だが、本作は終盤に反転する。彼はエル・ファニングと同様に、文字通り淵に立つ状態だったからこそ、隣り合わせになっていたことが発覚するそのサインを見落としていたことに観客もハッと驚かされ、彼女に近づくための打算的な下心を疑っていたことに反省させられることになる。

一方で、彼女はその後ポジティブに前を向くからいいものの、死ぬ寸前まで追い込まれていた彼女を振り回した挙句に置き去りにするような仕打ちを結果的にしてしまったことに対して、残される彼女がいかにショックを受けるか一番分かっている身としていかがなものかとも思ってしまう。

 

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Netflix映画『アンカット・ダイヤモンド』感想(ネタバレあり)〜瞬発力で窮地を切り抜け続けた狂人が浮かべる恍惚の表情〜

Netflixオリジナル映画『アンカット・ダイヤモンド』ネタバレを含めた感想です。冷や汗と怒号にまみれて瞬発力で窮地を切り抜け続けた狂人が浮かべる恍惚の表情が最高!アダム・サンドラーのベストアクト!

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<作品情報>

原題:Uncut Gems
製作年:2019年
製作国:アメリ
日本配信日:2020年1月31日 Netflixで配信開始
本編尺:2時間15分
監督:ジョシュ・サフディベニー・サフディ
出演:アダム・サンドラー、ラキース・スタンフィールド、ジュリア・フォックス
ジャンル:クライム、サスペンス

 

あらすじ


ギャンブル中毒の宝石商ハワードは、借金まみれで常に取り立て屋から監視されていた。そんなある日、ハワードはエチオピアで採掘されたブラックオパールの原石を手に入れる。ハワードはその石をオークションに出品して大儲けしようと考えていたが、店を訪れたNBA選手ケビン・ガーネットが異常なほどに興味を示し、仕方なく彼と取引することに。しかし事態はさらにハワードの望まぬ方向へと転がっていく。

 

感想


評価:★★★★★

鉱石場で黒人とアジア人が言い争う場面からはじまる本作は、ダイヤモンドという小宇宙に見せられた男が、様々なトラブルを同時多発的に解決して一発逆転を狙おうとする犯罪劇である。だが、そこには例えば『スティング』のような爽快感やスマートさは微塵もなく、ひたすら冷や汗と怒号にまみれて瞬発力で切り抜けていく。

今にも足を踏み外して命を落としかねない危ない橋を口八丁で渡り切ろうと躍起になるアダム・サンドラーがとにかく最高。彼の頭の中で描く最高のシナリオ通りには事が進まない展開に終始イラついているが、そもそも狂人が考えるその計画自体が狂っているので、そのてんやわんやぶりに可笑しみと愛嬌さえ滲ませる。

特に同時多発的にかかってくる電話を、口から出まかせで捌いていく場面など、とにかくテンポが良く、あれよあれよと物事が分単位で転がっていく様が実にスリリング。その高速回転に振り落とされまいと、主人公も観客も必死にしがみつくエネルギーが充満していく。

全くスマートな形でないにしろ、傷つきながらも泥臭く橋を渡り切り有頂天になる彼に待ち受ける仕打ちももはやコメディ。ようやくたどり着いた人生の絶頂期に恍惚の表情を浮かべる、まさに絵に描いたような馬鹿面が脳裏にこびりついて離れない。そのシニカルな幕引き含めて、サンドラーのベストアクトから目が離せない傑作。

Netflix映画『ひとつの太陽』感想(ネタバレあり)〜陽の光を遮るような場所を持っているか〜

Netflixオリジナル映画『ひとつの太陽』ネタバレを含めた感想です。中盤に待ち受けるショッキングな展開を受けて、取り残された家族の関係性はどう変化するのか。見応えたっぷりのファミリードラマです。

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<作品情報>

原題:陽光普照 A Sun
製作年:2019年
製作国:台湾
日本配信日:2020年1月24日 Netflixで配信開始
本編尺:2時間36分
監督:チョン・ホンモン
出演:ウー・ジェンホー、チェン・イーウェン、コー・シューチン
ジャンル:ドラマ

 

あらすじ


チェン家の次男アーフーが事件を起こし、少年院に送られた。自動車教習所の教官である父アーウェンは問題児のアーフーを完全に見放し、医大を目指す優秀な長男アーハオに期待を寄せる。母はどちらの息子にも同様に愛情を注いでおり、夫婦の間には諍いが絶えない。ある日、アーフーの子を妊娠したという15歳の少女シャオユーがチェン家を訪れる。さらに追い打ちをかけるように、突然の悲劇が家族に降りかかる。

 

感想


評価:★★★★☆

出来損ないの次男を見捨てた父親と、刑務所に入れられた後に人生をやり直そうとする次男の確執と歩み寄りを軸にした家族の物語は、この二人の距離感によって展開が大きく転がっていくのが面白い。

太陽は全ての人に平等だが、陽の光を遮るような場所を持っているかどうか。日陰を歩むような人生を送る次男と対照的に、一見すると日向を歩んでいる長男の優等生的な人生も過度な期待とプレッシャーを一身に背負い逃げ場がない。

作劇的にも大きな転調となる長男の物語からの退場は、家族で最も問題を抱えていなさそうだと思い込んでいただけに、そのサインを見逃していたのかと、残された家族と同様に観客をも動揺の底に落とされる。

特に音楽がセンチメンタルすぎる印象を受けるが、青や赤を基調としたナイトシーンなど絵作りも美しく、父親がもう1人の息子の人生のために自分の手を汚す不器用な愛情が静かな感動を生む力作である。

 

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Netflix映画『モキシー 私たちのムーブメント』感想(ネタバレあり)〜フェミニズム運動というスクール革命を引き起こす覚醒の物語〜

Netflixオリジナル映画『モキシー 私たちのムーブメント』ネタバレを含めた感想です。ある女子高生がフェミニズム運動というスクール革命を引き起こす覚醒の物語です。

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<作品情報>

原題:Moxie
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年3月3日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間51分
監督:エイミー・ポーラー
出演:ハドリー・ロビンソン、ローレン・サイ、マーシャ・ゲイ・ハーデン
ジャンル:青春

<予告編>
 

あらすじ


昔は反骨精神旺盛だった母と、嫌がらせに負けない転校生に感化され、校内の性差別を非難する冊子を作った女子高生。その行動が、やがて大きな変化を巻き起こす。

 

感想


評価:★★★☆☆

学園内ヒエラルキーの頂点に君臨するアメフト部の主将ミッチェルが、夏休み明けに転校してきたばかりの黒人女性ルーシーにイジメを繰り広げる光景に主人公が感化され、フェミニズム運動というスクール革命を引き起こす覚醒の物語。

違和感を感じながらもヒエラルキーに身を置き、学校内のルールや出来レース的な既定路線に従い、同調圧力にうんざりする毎日。そのルールを転校生という外部の視点から批評する展開は、かつての「学園もの」の世界の問題点を炙り出し、アップデートしていく試みである。

その中で、徐々に活動にのめり込んでいく主人公と、アジア系の親友との距離感の変化が本作の最大の魅力だろう。生きづらいヒエラルキー内でどのようにポジションを確保するかで連帯し合っていた関係性が、それぞれの家庭環境やフェミニズムとの向き合い方の違いを浮き上がらせることで、徐々にズレていくさまを丁寧に描き出していく。

社会に対して問題意識を持つことは多くても、声を上げてそれが間違っていると表明したり、周囲を巻き込むことは容易ではない。自分の殻を破って、あるいは無理に殻を破らなくても、それぞれの立場で勇気を持って行動することは、それだけでも観る者の心を動かす力がある。志は同じでも、それに向き合うスタンスは異なる。だからこそ、それらを認め合うことも、多様性を許容する社会にとって重要なことではないか。そんな問いかけを投げかけてみせる。

Netflix映画『この茫漠たる荒野で』感想(ネタバレあり)〜「世界を物語る」ことによって、誰かを救うことができる〜

Netflixオリジナル映画『この茫漠たる荒野で』ネタバレを含めた感想です。『ペンタゴン・ペーパーズ』に出演したトム・ハンクスが、この役柄を演じたことも大きなポイントだと思います。

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<作品情報>

原題:News of the World
製作年:2020年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年2月10日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間59分
監督:ポール・グリーングラス
出演:トム・ハンクス、ヘレナ・ゼンゲル、レイ・マッキノン
ジャンル:ドラマ

<予告編>
 

あらすじ


南北戦争終結して5年。退役軍人のジェファソン・カイル・キッドは、各地を転々としながら世界のさまざまなニュースを読み伝える仕事をしていた。そんな旅の途中、キッドはジョハンナという10歳の少女と出会う。6年前にネイティブアメリカンに連れ去られ、そこで育てられたジョハンナは、英語もわからず見知らぬ外の世界に困惑していた。見かねたキッドは、彼女を親族のもとへ送り届ける役目を引き受ける。2人は厳しい自然や人間たちによってもたらされる試練に直面しながらも、荒野を進んでいく。

 

感想


評価:★★★★☆

南北戦争直後の傷心のアメリカで、戦争に従事し現在は町を回って新聞記事を物語ることを生業としているキッド大尉と、インディアンに育てられたドイツ人少女ジョハンナの壮大なオデッセイ。互いの言葉もほぼ通じない状況下で、徐々に心を通わせる過程が実に自然。特に、売春目的で子供を買おうと迫ってくる男たちに対し、空砲に10セント硬貨を詰めて応戦することで窮地を切り抜ける場面は、インディアンに育てられたからこその文化や知恵が大尉を救うという重要なポイントであり、高低差を生かした空間演出含めてグリーングラスの手腕が光る

少女を元の居場所に還そうとする旅路は、生みの家族も、育ての家族も、唯一の親戚もいないという悲劇を幼き少女に突きつける過酷な旅である。シンプルな道行きから、入植者と土地を巡って血で血を洗うインディアンの歴史、さらには金持ちの捨て駒として貧乏人同士が争った北軍と南軍の歴史が浮かび上がり、そんな大人たちの野蛮さの狭間で、居場所を失った少女のまっすぐな眼差しが、随所で挿入される空撮と相まって、未来を「直線」的に照らし出す。

そんな少女の見つめるトム・ハンクスの眼差しに心打たれる。本作の原題が「News of the World」であることが示唆するように、彼は「世界を物語る」ことによって少女を救い、そして彼女とともに「新しい世界」を生きようとする。新聞は各地のニュースを活字で紹介する媒体だが、無数の言葉が集まって物語を形成し、それを物語ることによって、人の心を動かし、救うことだってできる。そんな力を肯定する、力強い物語だ。

Netflix映画『マルコム&マリー』感想(ネタバレあり)〜夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜〜

Netflixオリジナル映画『マルコム&マリー』ネタバレを含めた感想です。夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜。きっと朝には、モノクロの世界が、また元通りの色を取り戻すはず…。

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<作品情報>

原題:Malcolm & Marie
製作年:2021年
製作国:アメリ
日本配信日:2021年2月5日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間46分
監督:サム・レビンソン
出演:ゼンテイヤ、ジョン・デビッド・ワシントン
ジャンル:ドラマ

<予告編>
 

あらすじ


新作映画のプレミア上映を終えた映画監督マルコムは、恋人マリーとともに帰宅する。映画を称賛され上機嫌のマルコムに対し、マリーはなぜか不満を抱えている様子。批評家たちの反応を待ちながら会話を続けるうちに、2人の関係に潜む問題が浮かび上がってくる。

 

感想


評価:★★★☆☆

冒頭からモノクロの世界で夫婦と思しき男女が会話しているものの、興奮冷めやらぬマルコムの動きと合わせてカメラもせわしなく動き回る一方で、それを受けるマリーの表情は冷めており、そんな彼女をカメラもフィックスで映し出す。この冒頭から、二人の間には互いの感情を共有できない温度差のようなものが際立つ演出になっている。

その後、どうやらマルコムは映画監督で、お祝いのスピーチの場でほとんどの関係者には謝辞を述べたものの、本作の主人公のモデルとなった妻への感謝を忘れたことが発端になったことが判明する。ここから永遠と繰り広げられる夫婦喧嘩によって、本作で二人しか登場しないキャラクターの支配欲、承認欲、自意識、共依存、そして夫婦という不可思議な関係性までの時の流れを観客にも追体験させる仕組みだ。

マルコムは映画のモデルとして、妻として、そして女優としてのマリーにそれぞれ感情的かつ論理的にまくし立てる。彼女を形成しているそれぞれの側面に対して、正論を浴びせかける様は痛々しい。自分の存在価値を隣でアピールする恩着せがましい奴、映画は現実の再現ではなく解釈が大切なのだからお前が演じなくてもいい。そういった「口撃」をとともに、彼女が元ジャンキーだという生い立ちや、自分の女性遍歴をまぶしてくるのだからタチが悪い。

一方でマリーも、自分の酷い思い出を他人が演じることで美しい映画に昇華され、当事者である自分だけが置いてきぼりにされる感情を吐露する。大卒の特権階級である夫が、自分の体験を利用して苦渋をなめたから本作が作れたと世間から評価されることが許せない。そんなマルコムとマリーの言葉の応酬はまるで主導権をめぐる試合を見ているようであり、劣勢に立たされても決して食い下がらない様は滑稽でもある。

だが、最終的に言い合いに疲れた傷ついた二人は「あなたを叱れるのは私だけ」と寄り添う。そんな夫婦という不可思議な共依存をめぐる一夜。きっと朝には、モノクロの世界が、また元通りの色を取り戻すはずだ。

 

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Netflix映画『時の面影』感想(ネタバレあり)〜「掘る」行為は、過去に想いを馳せ、歴史を肯定的に書き直すこと〜

Netflixオリジナル映画『時の面影』ネタバレを含めた感想です。「掘る」という行為に、過去に想いを馳せ、歴史を肯定的に書き直すといった意味合いを込めた人間ドラマです。

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<作品情報>

原題:The Dig
製作年:2021年
製作国:イギリス
日本配信日:2021年1月29日 Netflixで配信開始
本編尺:1時間52分
監督:サイモン・ストーン
出演:キャリー・マリガンレイフ・ファインズリリー・ジェームズ
ジャンル:ドラマ、恋愛

<予告編>
 

あらすじ


第2次世界大戦が迫るイギリス、サフォーク州。未亡人のエディスは、自身が所有する土地にある墳丘墓を発掘するため、経験豊富なアマチュア考古学者バジルを雇う。やがて彼らは、予想していたより遥かに古い時代の歴史的遺産を発見するが…。

 

感想


評価:★★★☆☆

開戦前夜のイギリスを舞台に、世紀の発見となったアングロサクソンの船葬墓サットンフーをめぐる物語は、代々発掘が天職だった地方博物館の採掘者と大英博物館の考古学者との対立や協力、難病を抱えたシングルマザーと生まれ育った土地との数奇な運命を絡ませながら展開していく。

原題が「Dig」となっていることからも分かるように、本作は「掘る」という行為そのものに、過去に想いを馳せるとともに、過去や現在ではなく未来にルーツを伝える、あるいは野蛮だと思われていたアングロサクソンが実は文化や芸術や貨幣を持っていたという歴史の肯定的な書き直しといった意味合いを加える。それはまさに人類の野蛮な行為そのものである戦争と対比され、永劫の価値あるものとして埋め直して保存されるまた歴史に埋もれた採掘者の功績を「掘り直す」意義も本作には込められているだろう。

そんな意義を描きながらも、例えば戦争に突入すると採掘という行為自体が中止になってしまうという「タイムリミット」のようなものを作劇的に活かせていない等、終始淡々と描かれていくのが物足りない。また、フォトジェニックなショットの連なりでロマンチックに描かれる、リリー・ジェームズ演じる既婚者が自分に正直に生きる」末にたどり着く恋愛劇も本筋と上手く絡んでいかないのもマイナス。

Netflix映画『ザ・ホワイトタイガー』感想(ネタバレあり)〜光の国・インドのダークサイドサクセスストーリー〜

Netflixオリジナル映画『ザ・ホワイトタイガー』ネタバレを含めた感想です。本年度アカデミー賞脚色賞にもノミネートされた光の国・インドのダークサイドサクセスストーリーです。

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<作品情報>

原題:The White Tiger
製作年:2021年
製作国:インド、アメリ
日本配信日:2021年1月22日 Netflixで配信開始
本編尺:2時間5分
監督:ラミン・バーラニ
出演:アダーシュ・ゴーラブ、ラージクマール・ラーオ、ビジャイ・モーラ
ジャンル:ドラマ

<予告編>
 

あらすじ


インドの貧しい村で生まれ育ったバルラムは、裕福な一家の運転手として働くことに。持ち前のずる賢さで主人の信頼を得るバルラムだったが、ある事件をきっかけに、これまでの奴隷のような人生から抜け出すことを決意する。

 

感想


評価:★★★★☆

共に経済成長国として世界をリードする大国へとのしあがった中国とインド。本作は中国の温家宝に手紙を書く体で、起業家である主人公がその半生を語っていく光の国・インドのダークサイドサクセスストーリーである。

彼から語られる物語は、カーストによって生まれながらに将来が確定し、使用人として仕えることが骨の髄まで染み付いき、まるでニワトリの檻のように彼らを閉じ込めているインドの社会や文化の有り様である。

インターネット=外部の情報に触れる機会もない彼らは、宗教や年長者の教えが例え理不尽であろうがそれを信じて生きるしかない。そして富裕層や情報強者は、使用人の出自や家族の居場所を人質に、都合のいいときだけ家族扱いし、そして時には無知をいいことに罪を被せていつでも解雇する。

そんなインドの「檻」に対して疑問を抱く、主人の恋人であるアメリカ人の存在が本作を面白くする外部の視点から不条理な「伝統」を破壊しようとし、それによって主人や使用人も感化されていく。だが、そんな閉塞感を打破する希望の存在である彼女が、劇中でもターニングポイントとなる交通事故の当事者となることで、かえって使用人を絶望へと導いてしまう展開が見事。

主人への愛情や憎悪、賄賂が横行する政治への不信感、貧困層から搾取する富裕層への反逆。使用人だからこそ、見えてくる光景や世界があり、だからこそ主人公はアイデンティティが麻痺し、この状況から唯一抜け出せる術を繰り出すか苦悩する。

そんな丁寧な過程の積み重ねと迫力の末に、最期に使用人が主人に言い放つ「早く替えるべきでした」という台詞が、こうならざるを得なかった互いの心情を的確に表現してみせる。また2人の複雑な関係性を泥酔した主人を使用人がビンタで起こそうとする場面で象徴的に描いている等、パワフルでスピーディーなストーリーテリングの中に、丁寧な人物描写も織り込まれている力作だ。

Netflix映画『私というパズル』感想(ネタバレあり)〜ホラーより怖い冒頭の自宅出産シークエンス〜

Netflixオリジナル映画『私というパズル』ネタバレを含めた感想です。子供がいる身としては、自宅出産によって我が子を失うまでの過程を追い続ける冒頭が、もはやホラーより怖いです…。

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<作品情報>

原題:Pieces of a Woman
製作年:2020年
製作国:カナダ、ハンガリーアメリ
日本配信日:2021年1月7日 Netflixで配信開始
本編尺:2時間6分
監督:コーネル・ムンドルッツォ
出演:ヴァネッサ・カービーシャイア・ラブーフエレン・バースティン
ジャンル:ドラマ

<予告編>
 

あらすじ


ボストンで暮らすマーサは、パートナーであるショーンとの間に授かった赤ん坊を自宅で出産する準備を整えていた。助産師イヴ立ち会いのもと、壮絶な痛みを乗り越えて出産するが、赤ん坊はすぐに死んでしまう。計り知れない悲しみと喪失感の中で、対立の絶えないパートナーや高圧的な母との関係に苦悩するマーサ。やがて彼女は、世間から誹謗中傷を浴びせられる助産師イヴと法廷で対峙することになるが…。

 

感想


評価:★★★☆☆


とにかく冒頭からの、自宅出産によって我が子を失うまでの過程を追い続ける一連のシークエンスが迫力たっぷりでもはやホラーより怖い。しかも長回しのような形でカメラが家の隅々まで行き来するため、その後の「不在」をより強調させる効果を上げるとともに、家はもはや安らぎとは真逆の場所になっていく。

そんな衝撃的なオープニングから展開する本作は、墓石に掘られた我が子の名前のスペルミスを大した問題だと思わない男性側と、埋葬を拒んで我が子の亡骸を大学に献体しようとする女性側といったように、パートナー同士や周囲との関係性の揺らぎや崩壊を淡々と紡いでみせる。

一方で、観客に一部始終を目撃させたにも関わらず、劇中で終始世間の論点として上がっている助産師の行為は善か悪かという問題に関しては踏み込まず、産んだ母親がある意味自己完結する形で幕引きするのが中途半端な印象を受ける。

確かに子供の痕跡を消そうとしていた彼女が、出産直後には確かに母親として我が子を抱いていた写真を見つけることで前に進むことができたという動機付けは的確だが、自宅出産にこだわる母親のエゴにも切り込んでいたのであれば、もっと社会性を帯びた作品に仕上げられたはずだ。

 

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